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3・人形と鏡と猫

そのまま綺麗な猫は去っていく。

向こうは雄猫だったが、二匹並んでいると美形でとても絵になる。

それに、飼い猫ではなく野良だというのは誰が聞いても驚くだろう。

「綺麗だね。」

小さく鏡がもらすと毛づくろいを始めた猫は言う。

「アグレマンは人間をうまく利用しているみたいでね、まるで飼い猫さ。規則正しく室内に入って規則正しくご飯を食べる。あたいにはできないことをやってのけて、海外にまでつれまわされている不思議な猫。アグレマンはどっかの国の言葉で喜び、快楽とかいう意味らしくてね、あたいが呼ばれていたファッシノってのもまた別の国の言葉で魅力とか魅惑とかいう意味らしい。まぁあたいのことだから?魅惑的で魅力十分なのは一目見れば分かるじゃないか?だからこの名前で呼ばれてやってもいいと思って飼い猫にはならないが名前があってもいいと思ったのさ。」

猫は背筋を伸ばして鏡の前に座った。

「君は、ファッシノっていうんだね。」

鏡がそういうと猫は少しにやりとして・・・・・・いや、顔を傾けたのが少しそのように見えただけかもしれないが、鏡を見ながらこう言った。

「あんたも、シアワセカガミって言うんだろ?」

「これからよろしくファッシノ。」

「ああ、よろしくシアワセカガミ。」

握手は交わせないにしろ、お互いよく分からないその表情で・・・・・・鏡には表情も何もないが・・・・・・笑いあったのだろう。

握手の変わりに交わされた猫と鏡の小さな絆。

人形はどこに眠っているのであろうか・・・・・・。

旅に出てどんなことがあるか・・・・・・知るはずもない。

ただ猫はファッシノといい、その猫のファッシノはシアワセカガミをその背に背負い歩き出す。

途中カガミを背負うファッシノに背負う用の紐をくれる人や、餌をくれる人たちとであった。

途中でシアワセカガミのことを少しだけ知っている人に追い掛け回されたりした。

そんなこんなで旅が始まり、何年かが経とうとしていた。

ファッシノは手馴れた手つきで・・・・・・いや、なれた感じの動きでカガミを下ろすと鏡の前に座り少しだけ嘆いた。

「ああ!もうっ!毛並みが悪くなっちまったよ!汗で蒸れてくるし、美しさが減っていく気がしなくもないよ。でも、まぁいいさ。こんなことくらいであたいの美しさはなくなったりなんかしないんだから。でも、この旅はいつまで続くんだか・・・・・・。」

ファッシノは独り言のように言った。

「ごめん、そしてありがとう。確実に幸せ人形には近づいてるとは思うんだ。僕の気持ちがざわつくんだ。僕たちは同じ時期、同じ手によって作られたから。それに・・・・・・一部装飾も同じもので作られているんだ。」

「ふうん、だから離れててもつながってるって訳?」

興味なさそうにファッシノはあくびをしてから大きな延びをするとコテッと座った。

たまに鳥を取ったりして相変わらずすばやいファッシノだが、最近はすこしばかり疲れやすくなったようだ。

昼寝時間が多くなった。

もうずいぶんと長い月日が経った気がする。

あと何日旅をすればいいんだろう。

近づいてる気がするのに、なかなか見つからない。

何故だろう・・・・・・。

そしてやっと・・・・・・。

ガリッ!

それは見つかった。

石のように見えるそれに鏡がぶつかったのだ。

「幸せ人形!僕だ、僕だよ!ああ、幸せ人形、今目を覚まさしてあげるからね!」

「ええ?これが人形かい?あたいにはただの石にしか見えないよ。」

掘り起こされ、石のように見えていたそれは人形の頭であることを知った。

「ん・・・・・・?」

人形は鏡と猫を見た。

「あれ、幸せ鏡、お久しぶりだね。僕、長いこと寝ていた気がするよ。」

「ああ、幸せ人形!本当にお久しぶりだね、ここに僕らを知っている人間は数少ない、僕らはやっと幸せとついになる不幸せを呼び寄せると呼ばれるものではなくなったんだ。」

鏡は悲しそうに、でも嬉しそうに言った。

「そうか、うん・・・・・・でも、僕、眠いよ・・・・・・。」

猫と鏡と人形はずっとそばにいた。

そう、ずっと。

やがて猫は老い、死が迫り、ついに目も足も耳も使い物にならなくなった。

本当に最後の最後になったとき、三つは心で通じ合った。

『ファッシノ、君に願いはあるかい?』

『なんだい?お前達、声を合わせて。』

『長生きしたいとか、何かないの?僕達のこの力も最後な気がするんだ。』

『そしてこの力がなくなったとき、僕らは壊れる。そうだよね、幸せ鏡。』

『幸せ人形もそう思う?じゃあやっぱりそうなんだ。』

『あたいに願いなんてないさ、長生きしたいなんて思わない。命は散るのが当然なんだよ。あたいはあたいの人生に満足してるのさ。あんたらも人生を満喫するんだね。幸せ何とかって名前なんだから、幸せになんな。誰かのためにどうしようなんて考えなくていいのさ。』

それは、かつて二つの主人マスターであった人間が言った言葉と同じだった。

鏡も人形も驚いてから悲しそうに、でも嬉しそうにその泣けない容姿で見えない涙を流した。

『ああ、幸せ鏡、主人マスターはここにいたんだね。』

『そうだね、幸せ人形、長い月日をかけて、主人(マスター)は生まれ変わって、こんなにも近くにいたんだね。』

『どおりで懐かしいと思ったわけだ・・・・・・あたいもあんた達に会ってたのか。じゃあ言葉が通じるはずだね。』

猫はほんのり動かない筋肉を使って微笑むと、猫は天国に旅立った。

鏡も人形もその心のすべてが幸せに包まれて、ピシピシ、パリン・・・・・・!

音がしたと思うと壊れて猫の魂と共に天国へと登っていった。

残ったのは汚らしい鏡や人形の壊れた破片と美しかった頃は微塵もなくなった猫の骸だけだった。

人間がそこへ来て、チッと舌打ちをすると、猫も鏡も人形もすべての残骸が一つのゴミ袋にまとめられ捨てられてしまった。

三つの魂、いつどこで今度はどんな形で出会うのだろうか・・・・・・そんなこと知るはずもない。

分かるはずもない。

でも、もうどこかで出会っているかもしれない。

その魂はあなたの中に、そして私の中に、それ以外にもあるかもしれない。

また、出会えることを願いながら―――……。

ありがとうございました。

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