1・鏡と人形の過去
幸せ鏡は幸せ人形と共に生み出され、暖かな手から生を受け、暖かな愛情を沢山もらった。
その主人に喜んでもらいたくて鏡は幸せな姿を・・・・・・その者が望む姿を映し出し、それをかなえる魔法の鏡となった。
幸せ人形は人形がもつ袋が物質的なその人の望むものをかなえる魔法の人形となった。
でも主人は決してその力を使いはしなかった。
周りから見てその生活が平凡としかいえなくてもその二つの主人はすでに『幸せ』だったから。
でも主人の命は永遠ではない。
やがて老い、そして二つと別れ、二つは外の世界へと放り出された。
二つは初めて自分たちの知らない外の“世界”を知る。
いつしか世界は二つを巡って戦争が起きた。
人形が物質的な願いをかなえ、鏡が物質以外の願いをかなえた。
美も地位も権力も、永遠の生や生き返るなどのこと以外はすべて。
人形は人形のほうで願いを叶えてくれる袋は人形が持たないと意味を成さない。
人形も鏡も幾度となく盗まれ、離れ離れになった。
どちらもあればすべての願いがかなう。
そう、それはきっと死者の命でさえも・・・・・・。
そんな人間の考え方から何度も何度もいろいろな人の手に渡り、いつしか二つは血の色に染まっていた。
でも死者をよみがえらせる事はできない。
それは二つがよく知っていた。
それができるなら主人は自分たちの前から消えはしなかった。
でもきっと主人のことだから生きていたいから生き返ろうという願望はないのだろうけど・・・・・・。
いつしか二つは隠された。
それもバラバラに。
お互いの位置をお互いが知らず、やがて鏡も人形も忘れ去られた頃
再び世界は巡りだす。
長い長い眠りから目覚める時・・・・・・。
「あれぇ、なんだろう。これ。」
最初に鏡が見つかった。
見つけたのは雌猫だった。
猫は鏡を知っていたが、“幸せ鏡”のことは知らなかった。
「ああ、なんだ、鏡か。なんでこんなところに埋まってるの?ずいぶん汚いけど傷もあんまりついてないじゃないか。」
独り言のように言う猫。
鏡は猫に話しかけた。
「僕は人間を不幸にする鏡らしいんだ。だから人間の手によって埋められたんだよ、ずいぶん前に。」
「ふぅん?人間は使い物にならないと知るととたんに手のひら返すもんねぇ、でも使いようによっちゃずいぶんといい思いができるよ。」
そう猫は言いながら耳をかき、顔をこすり、背中を舐め、毛づくろいを始めた。
「違うよ、僕が人間の願いを叶えてきたんだ。僕の名前は幸せ鏡。もう一つ幸せ人形って言うのがあって、僕たちは離れ離れになってしまったんだ。でも僕は動けない。ここで眠り続けるしかなかったんだ。君が来るまで。」
「シアワセカガミ?ただの鏡とどう違うって言うのさ、それにあたいを巻き込む気?」
軽くフーと言って猫は鏡を睨む。
そして伸びをしてから鏡に近づいた。
「あら、あたいってば本当にいい女。」
鏡の前にちょこんと座り耳の後ろを鏡の前で掻き始めた。
「やっぱり君にも願望があるのかな?」
すこしさびしそうに鏡が言うと猫は声を立てて笑った。
「願望?なんだい、それ。あたいはあたいでこの美しさがあれば満足さ。ま、人間が気まぐれにくれる餌があればもっといいけどね。」
確かにその猫は毛並みも良くシュッとした感じの細い猫でたまに青っぽく光るグレーの毛並みがとても綺麗だった。
野良猫とは思いづらいが首輪がない。
「君は、飼い猫なの?」
鏡は疑問に思って猫にたずねた。