63.舐められたらそこで終わり
ホイットボックスの街に辿り着いたのは、その日の夕暮れ時だった。
門が締まる前になんとか街に入って、宿を探す。
魔境に近い街とあって、行き交う冒険者の多いこと。
俺たちはひとまず旅人が広く使う門前宿で一泊してから、安くて料理の美味しい宿を探すことにした。
長居するつもりだから、できるだけ良い宿に泊まりたいものだ。
翌日はディアーネのためにバックラーを下取りに出して、ラウンドシールドを購入した。
これでディアーネは常に片手で剣を振るうことになる。
スキルの恩恵があるとはいえ、慣れないうちは無理はさせたくないが、生憎とこれから魔境に潜るのだ。
前衛の片方としては頑張ってもらいたい。
その後は冒険者ギルドへ向かうことにした。
今日はまだ魔境に潜る予定はないが、情報収集はしておきたい。
具体的には魔境の難易度を計りたいのだ。
ゲーム『トゥエルブ』には難易度の異なる魔境が幾つも登場してきた。
魔境の難易度は星の数で表され、星ひとつなら初期キャラでも挑めるが、星が増えていくにつれてだんだんと登場する魔物が強くなっていき、果てはガチガチに組んだキャラクターでなければ苦戦を強いられるようになっていく。
とまあそんな感じで、きっとこの世界でも魔境には難易度があるはずなのだ。
それを見極めないことには、怖くて潜れない、というのが本音である。
「人が多いね!!」
「そうだね、さすが魔境に接している街だ」
キョロキョロと周囲を見渡して落ち着きのないディアーネの手を引き、依頼掲示板に向かう。
魔境に生息する魔物の討伐依頼を見れば、出現する魔物が分かるはずだ。
俺は依頼票を眺める。
ふうん、難易度としては星ふたつからみっつくらいか。
判然としないのは、星みっつから出現する魔物が登場する割りに、星ふたつ程度の難易度の魔物も散見されるからだ。
どうやらゲームとまったく同じ難易度では計れないようである。
「どう、レイシア。私たちでも入れそうな魔境なの?」
「うん。心配することはないよ、これならなんとかなる」
不安げなマーシャさんに応えると、「おいおい、ガキが魔境に潜るだとよォ」と俺たちを揶揄するような声が上がった。
チラリと視線を向ければ、ガラの悪そうな冒険者ふたりがニヤニヤしながら俺たちの方を見ている。
ふたりの冒険者タグは銀だ。
「何か文句があるのか?」
喧嘩なら買ってもいい。
十歳という年齢と外見では舐められるのは当然のこと。
それを払拭するには、実力を示すしかないのだ。
「なんだよガキが。……おいおい、銀ランクかよこのガキ」
「だが魔法使いだぜ。魔力切れになったらマナポーションに頼らなきゃならねえパーティの金食い虫だ」
なるほど、〈MP軽減〉を習得できないこの世界の魔法使いたちは、マナポーションに依存しているわけか。
そりゃ確かにコスパが悪いだろうな。
「レイシアがマナポーションに頼ったことなんてないんだから!!」
「おいおい、もうひとりのガキも銀ランクだぜ。どうなってやがる」
「マナポーションに頼らない魔法使いぃ? そりゃサボり過ぎじゃねえのか?」
ディアーネも参戦してきた。
さて問題はこのふたりのランクだ。
銀ランクということはそれなりの強さだということ。
何を見せれば、舐められずに済むかな。
「遠くから吠えてるだけか? なんなら訓練場で実力の差を思い知らせてやってもいいぞ」
「なんだとォ!?」
「本気で言ってるのか? 大人舐めてんじゃねェぞ!!」
「ガキふたりが怖いなら、とっとと尻尾巻いて逃げろよ」
煽る。
周囲も俺たちのやりとりを興味深く眺めている。
マーシャさんとアリサは俺とディアーネの実力を知ってはいるものの、相手の大人ふたりも銀ランクなので口を挟めないでいる。
今回は俺とディアーネのふたりと、そこの大人ふたりの喧嘩に収めるのが理想的なので、それでいい。
「後悔しても知らねえぞ?」
「本当に後悔するのはどちらか、教えてやるよ」
目が座った大人ふたりに、俺はショートロッドを取り出した。




