62.詭弁じみた武士道だな
シクロン男爵領を抜けて、いよいよ魔境のあるネオパトラ侯爵領に入った。
魔境は侯爵領の領都から南にあるホイットボックスという街から近い。
当然、俺たちはホイットボックスを目指して街道を歩いていた。
休憩時間。
ディアーネが片手で剣を振るっている。
まだぎこちない動きもあるにせよ、〈剛腕〉のお陰で問題なく片手で剣を振り回すことが叶っていた。
「ねえレイシア、片手で剣を扱えるようになったら、次はどうすればもっと強くなれるの?」
「そうだね……」
俺はザっと脳内にある騎士系のスキルを思い出しながら、今のディアーネのスキル構成も加味しながら次の段階へ誘導する。
「街へ着いたらバックラーではなくラウンドシールドを購入して、〈シールドバッシュ〉を使えるようにしよう」
「盾で殴るやつだ!」
「そう。それから五連撃を三連撃に縮める練習もした方がいいね」
「え、五連撃やめちゃうの?!」
「うん。ただし一、二、三の三連撃じゃなくて、三、四、五の三連撃だよ。いつもなら三発目に放つ斬撃から始めるんだ。その方が総合的な威力が高いからね」
「三発目から始めていいの? うん、分かった。練習してみるね!!」
ディアーネは「三、四、五!」と繰り返し口にしながら三連撃の練習を始めた。
素直でいいことだ。
これで〈剣・斬撃〉と〈剣・斬撃Ⅱ〉が外れて新しいスキルを習得できれば良いのだが。
おずおずとアリサとマーシャさんも俺の方ににじり寄る。
「拙者にも是非、助言をくださらぬかレイシア殿」
「私にもよ。この前の山賊団討伐のときに連射が成功したの。次は何をすればいいの?」
俺は「じゃあアリサから」と前置きして、今のアリサのスキル構成を推測する。
「多分、〈二の太刀要らず〉は習得できたと思う。次はまず先陣を切る際に、名乗りを上げるところからかな」
「な、名乗りを上げる? それは如何なる意図があるでござるか?」
「アリサが目指す境地は、一刀流を磨き上げることだよね。〈居合い〉の技を中心として発展させるには、まず武士道を体現する必要がある」
「武士道……拙者の故郷の言葉でござるな。礼節を重んじることこそ武の頂きに通ずるとか……」
「そう。だからまずは名乗りを上げること。これを徹底して欲しい。名乗りを上げることで、味方の士気を上げて自身すらも高揚させることができれば、ひとまずは成功かな」
「な、なるほど。武士道の始まりとして名乗りを上げる……レイシア殿に言われなければ絶対に思いつかなかったでござる。これからはどんな相手であろうとも、まず名乗りを上げつつ攻撃をするのでござるな」
「うん、頑張ってね」
そして俺はマーシャさんに向き直る。
「マーシャさん。次は四連射を目指そう」
「四連射!? 三連車ではなくて!?」
「うん。一足飛びに思えるかもしれないけど、二連射を二回、間断なく繋げることで四連射が可能なんだ」
「そ、そうなの」
「後はできれば、魔力を矢に変える訓練をしてみて欲しい。これは実戦の場では難しいから、休日に練習して欲しいかな」
「魔力を矢に……変える? それは矢を番えずに弓を放つということで合っているかしら?」
「うん。次の段階へ進むには、四連射と魔力の矢を放つこと。魔力の矢は消耗が激しいから使いづらいと思うけど、これは次への布石だと思って訓練して欲しい」
「分かりましたわ」
さっそく、マーシャさんは矢を番えずに弓を引く訓練を始めた。
今は魔力を矢に変じさせることはできないけれど、いずれはできるようになるはずだ。
今回のアドバイスで、アリサは【大名】の〈先駆けの功名〉、マーシャさんは【弓聖】の〈四連射〉と〈魔力の矢〉の習得に誘導させてもらった。
最上級クラスへのクラスチェンジ、それが今回のアドバイスの目的だ。
アリサとマーシャさんが最上級クラスへクラスチェンジできれば、ふたりも銀ランク冒険者になるための昇格試験を受けてもらう。
晴れてこれで『妖精の友』は銀ランク冒険者のみで構成される、銀ランクパーティとなるわけだ。
回復役としてのスキルセット完成はもう間近とはいえ、三人がそれぞれ高みを目指しているのに俺だけ寄り道しているのはもどかしい。
自分で決めたこととはいえ、早いところ攻撃力の向上に繋がるクラスチェンジをしたいぞ。
魔境に辿り着いたら、ガンガンSPを稼いでやるからな!!




