58.銀ランクへ昇格
さて魔境へ向かうための準備が始まった。
久々に長旅をすることになるので、着替えやマントを新調し、保存食を買い込む。
さすが十歳、身長は村を出た頃よりも順調に伸びていた。
さて準備といえば、マーシャさんがバードナ辺境伯に挨拶をしてくる、と領地を離れ魔境に潜る話をしに行った。
もし辺境伯から許可が降りない場合は、マーシャさんを置いて三人で魔境へ向かうことになるのだろうか。
せっかく順調に成長している【斥候】の離脱はできれば避けたいが、あれで貴族のご令嬢だからなあ。
……などと心配していたが、マーシャさんは家族から激励されて、魔境へ向かうことができるようになったそうな。
さて冒険者ギルドにも領都を離れる報告をしておかなければならない。
この街もなんだかんだ長いもので、顔見知りの職員も少なくないのだ。
「魔境へ……そうなの。でも確か魔境へは最低ひとり、銀ランク冒険者が必要だったはずよ」
「え、そうなんですか?」
馴染みの受付嬢が顎に指を当てて言った。
まさか銀ランク昇格を目指して魔境に入ろうとしていたのに、そもそも先に銀ランクになっていなければならないなんて。
しかし受付嬢は、「ちょっと冒険者タグを借りるわね」と言ってカウンターの奥へと入っていく。
何か台のようなものの上にタグを置いてメモを取っているようだった。
「レイシアちゃん、いま調べたら実績が銀ランク昇格試験に届いているわよ。大物の魔物をたくさん狩ったからかしらね、意外と早かったわ」
「え、試験があるんですか?」
「ええ簡単なものだけどね。……他の三人の実績も調べさせてもらうわね」
冒険者タグには倒した魔物の数や依頼を成功させた数などが記録されているらしく、俺以外ではディアーネが銀ランク昇格試験を受けられるとのことだった。
当然、俺とディアーネは銀ランク昇格試験を受けることにした。
ギルド職員の立ち会いのもと、試験官である銀ランク冒険者がひとり、訓練場にて待っていた。
誰かと言えば、『戦神の斧』のリーダーだ。
「やあ待っていたよ。君たちが銀ランク昇格試験を受けるだなんてね、早いなあ」
「こんにちは。今日はよろしくお願いします」
「うん、レイシアちゃんとディアーネちゃんだね。まず先にディアーネちゃんからやろうか。試験内容は、俺との模擬戦だ。勝敗ではなく内容を見るから、そこだけは注意してくれ」
ディアーネは元気よく「はい!!」と返事をして、木剣とバックラーを手にした。
『戦神の斧』のリーダーの実力はだいたい把握している。
多分だが【戦士】の上級クラスである【戦士長】か、その上の最上級クラスである【戦巧者】だ。
ゲーム『トゥエルブ』では斧は不遇の武器で、剣や槍などと違い専用クラスが戦士系にない。
一応、【盗賊】とその上級クラスである【山賊】と【海賊】に斧スキルがあるが、動きから察するに元となる【盗賊】に就いているとは思えない。
とはいえ【戦士長】や【戦巧者】は弱いクラスではない。
斧専用クラスではないとはいえ、汎用性に優れたスキルを幾つも習得できる他、他人へバフをかけることのできるリーダー向けのクラスなのだ。
……まあ試験は一対一だからバフは関係ないけど。
ディアーネの試験が始まった。
左腕のバックラーを前にしながら、半身になって距離を詰める。
間合いに入ったところで斬撃五連撃が放たれる。
木製のバトルアックスを手にした相手は、斧で五連撃を受け切った。
そして連撃の切れ間に反撃をするが、ディアーネもそれは読んでいたようで、バックステップで距離を取る。
そして再度、間合いを詰めて五連撃を放つ。
いや、三連撃で止めて、構え直して五連撃を放ち直す。
なるほど、考えたな。
タイミングをズラされた相手が、慌てて防御に回る。
さすが銀ランクパーティのリーダーだ、冷静にディアーネの攻撃を防御し切った。
そして相手の反撃が来る。
今度は回避せずに左腕のバックラーで斧を受け止めた。
そしてディアーネは右手だけで、反撃に転じる。
片手で剣を振るう練習はしているが、まだモノにはなっていない。
しかし木剣ならば、軽い分だけ扱い易い。
ディアーネの斬撃は相手の鎧の上に当たった。
「う、それまで!!」
試験官である『戦神の斧』のリーダーが試験終了を言い渡す。
どうやら一撃、入れたら終わりにする予定だったらしい。
結果は?
「合格だ。ディアーネちゃん、今日から君は銀ランク冒険者だ」
「やったー!!」
ディアーネは木剣と木製のバックラーを片付けて、俺に抱きついてきた。
「やったよレイシア!! 私、銀ランク冒険者になれたよ!!」
「あーはいはい、おめでとう。とりあえず離れてくれるかな、私も試験があるんだから」
「あ、そうだね」
ディアーネは見学していたマーシャさんとアリサのもとへ走っていった。
試験官である『戦神の斧』のリーダーは、訓練場に的を設置して、次の試験の開始を宣言した。
「さあレイシアちゃん。君の魔法をこの的に当てて欲しい。それと使える魔法はすべて使ってくれ。種類と威力に応じて、評価が決まるからね」
「はい。じゃあ……〈ストーンハンマー〉」
俺は順番に〈ウォータースピア〉〈ウィンドカッター〉〈アイスボルト〉〈ブリザード〉〈レイ〉を的に撃ち込む。
的は〈アイスボルト〉の時点で凍りつき、〈ブリザード〉で更に氷が分厚くなり、〈レイ〉で砕けた。
「す、すごいな。そんなにたくさんの種類の攻撃魔法を習得していたのか……」
「これで全部です。どうでしょう?」
「文句なしに合格だ。おめでとうレイシアちゃん、君も今日から銀ランク冒険者だ」
「ありがとうございます」
「受付カウンターで冒険者タグの更新を忘れないようにね」
「はい」
俺とディアーネは、こうして無事に銀ランク冒険者に昇格した。




