55.ござる加入
「拙者をレイシア殿たちのパーティに入れて欲しいでござる」
辻斬り事件の数日後、冒険者ギルドでアリサに声をかけられた。
顔を見合わせる俺たち三人。
「確かアリサは仇であるシュンを倒そうと旅をしてきたんだよな。故郷に戻ったりしなくてもいいのか?」
「うむ。拙者の家族はもうこの世にはおらぬゆえ、故郷に戻ったところで何もありはしないのでござるよ。それよりも……」
アリサは俺の目を見て言った。
「レイシア殿は金ランク冒険者とシュンとの戦いを理解しておられたご様子。レイシア殿についていけばもっと拙者は強くなれる。そう考えたのでござる」
なるほど、俺はふたりの戦いに夢中だったが、アリサは俺のことも見ていたようだった。
「ふむ……皆はどう思う?」
「私は賛成! アリサとはもうコンビだもんねー」
「私もいいと思う。コンビネーションの確認をしたときもバランスが良いパーティになってた気がするし。アリサの人柄も好ましいわ」
ディアーネとマーシャさんが賛成なら、問題はない。
「よし、じゃあアリサ。今日から銅ランクパーティ『妖精の友』の一員だ」
「これからもよろしく頼むでござる。……ところでパーティ名の『妖精の友』とはどういう意味でござろうか?」
「それは、私が妖精から魔法を授かったのにあやかったんだ」
「妖精から……でござるか」
「ああ」
そういえばアイテム袋を見せていない。
まあ一緒に冒険をするのならば、これから見せればいいか。
「妖精から授かった魔法については、後で説明するよ。とりあえず依頼掲示板を見に行かないか」
「そうでござるな。道中にでも話を聞かせてもらいとうござるよ」
かくして俺たちのパーティに【武士】であるアリサが加入したのだった。
領都近郊の森の深く。
四人いれば森の奥まで踏み入っても、もう怖くはない。
あれから俺も〈MP軽減Ⅱ〉を入手しているし、皆それぞれに強みがある。
「しかし収納魔法とは……驚いたでござるよ」
道中でゴブリンを狩った後、魔石をアイテム袋に入れるのを見せた。
手の平に乗せた魔石がいずこかへと消え、そして自在に取り出せる光景はアリサにとって衝撃的だったらしい。
「やはりレイシア殿は何か人とは違うでござるな」
「そうかな?」
俺はドキリとしながら、アリサの視線から逃れる。
ディアーネとマーシャさんが視界の端で頷いているのが見えたが、スルーした。
さて俺たちの目下の目標は、銀ランクへの昇格だ。
俺とディアーネの実力は問題ないレベルだと思っているが、マーシャさんとアリサは少し物足りない。
せめて最上級クラスにクラスチェンジしてもらうくらいの実力が要求されるだろう。
具体的にはマーシャさんは【鷹匠】になり、さらに【狙撃手】になる必要がある。
アリサの方は【大名】に。
結局のところ、たくさんの魔物を倒してSPを稼ぐしか道はない。
俺も〈ヒーリング〉強化のためにSPが欲しいしな。
だから森の深いところにいる危険な魔物を狩るのは、ひとつの手段として有効だ。
危険が伴うとはいえ、〈アイスボルト〉を無制限に放てる俺がいるし、キマイラと同程度の相手なら多分、どうにかなると思っている。
「この先に大きな気配があるわ。多分、情報からするとワイバーンのいる辺りだから――」
マーシャさんが心配そうに俺を見た。
「大丈夫、撃ち落として前衛たちでタコ殴りにすればワイバーンも倒せるから」
「そ、そうなの? みんな強いわね……」
マーシャさんもそのうち強くなるんだけどね。
俺たちはワイバーンの元へと近づいていった。
「〈アイスボルト〉!」
開幕の先制〈アイスボルト〉とマーシャさんの弓がワイバーンを襲う。
のんびりと日向ぼっこしているところ、悪いね?
うまく背後を取れたので、遠慮なく攻撃させてもらったのだ。
皮膜の翼が空気を叩く。
一旦、空中に飛び上がって立て直そうとでもいうのか。
だが〈高速詠唱〉のお陰でリキャストタイムは終わっている。
「〈アイスボルト〉!」
二発目。
そして前衛のふたりがワイバーンのもとへと到着した。
まずは〈俊足〉のあるアリサから、居合い一閃。
翼を傷つけ、血しぶきが舞う。
ディアーネが次いで辿り着き、斬撃四連撃を見舞う。
「うわぁー!?」
しかし連撃の途中、棘のあるワイバーンの尻尾が周囲を薙ぎ払った。
幸いにも防具の上からだったので大きな怪我にはならなかったようだが、ディアーネの連撃が途絶える。
アリサは尻尾を上手く回避して、距離を取った。
しかしそれでワイバーンには十分だったのだろう、空中へ飛び上がり、空へと舞う。
急旋回しながらこちらに首を向けて、吠えた。
「〈アイスボルト〉!」
マーシャさんの弓と俺の〈アイスボルト〉が翼を狙う。
アリサの居合いでダメージを受けていた方の翼に矢が突き刺さり、凍りつく。
ワイバーンは大きく息を吸い込むと、炎の息を地上へ向けて吐き出した。
だがディアーネもアリサもワイバーンの下をくぐるように前進し、炎の吐息の回避に成功する。
幸い俺たち後衛まで届く量の炎じゃなかったので、翼目掛けて攻撃を再開した。




