52.死屍累々
シュンという辻斬りに無策で挑むのはあまりに無謀だ。
俺たちとアリサは冒険者ギルドの訓練場で落ち合い、なんとか即席のコンビネーションを組もうと考えた。
前衛のディアーネとアリサが息を合わせるのがまず大前提。
そして後衛を頼り、俺の魔法やマーシャさんの弓を有効に活用すること。
とりあえず今日だけでそれをやれるようにして、夜に備えることにした。
まずはディアーネとアリサには木剣で打ち合ってもらう。
互いの技量を知ることで見えてくるものがあると考えてのことだ。
「では遠慮なく打たせてもらうでござるよ」
「よし、来い!!」
腰だめに木剣を構える。
あれは……居合いの構えか。
鞘はないが、身体で刀身を隠すことで攻撃の出を見づらくする技術である。
ディアーネは構わず突っ込んだ。
居合い一閃、木剣がぶつかり合う音がする。
互いに二の太刀を振るう。
そしてディアーネは〈剣・斬撃Ⅲ〉に繋げ、アリサは木剣でそれを受け止めた。
どうやらアリサは【戦士】から直接、【武士】にクラスチェンジしていたようで、斬撃の次に放ったのは刺突だった。
さらにディアーネの〈剣・斬撃Ⅳ〉がアリサを襲う。
「くっ……この連撃は!?」
「まだまだ行くよぉー!!」
攻める一方のディアーネに、たまらず降参するアリサ。
最上級クラスである【剣聖】と上級クラスである【武士】の差が如実に出た戦いとなった。
……アリサは銅ランクとしては平均的な強さだけど、俺やディアーネは銀ランクに引けを取らないからなあ。
むしろシュンがどのようにあれだけのクラスを経由してスキルを習得するSPを稼ぎ出したのかが気になる。
やっぱり人間を斬って稼いだのだろうか。
「つ、強いでござるなディアーネ殿。流れるような剣さばき、シュンのようでござった」
「うーん。でもシュンって人は私より更に上なんだよねえ」
「そうでござるな。悔しいが、ひとりではどうにもならないでござる。しかしディアーネ殿とふたりでも、やはり厳しい気がするでござるよ」
その後もディアーネとアリサは手合わせをした。
二度目はアリサの方から仕掛けることになったが、素早く距離を詰めての居合いにディアーネがギリギリ対応して、なんとかディアーネが勝ちを収めた。
「なんか凄い勢いで距離を詰められた!!」
「拙者の流派では皆、できる技でござるよ」
見たところノービススキルの〈俊足〉だろう。
一時的に加速するダッシュスキルである。
距離を詰めるのに便利だが、敢えてSPを割いてまでアクションスキルの枠を埋めるかと言われると微妙だ。
しかし辻斬りシュンも〈俊足〉は使っていた気がする。
ゲームとは違って、意表を突けるから対人戦では有効なのかもしれない。
残念ながらディアーネのアクションスキル枠はカツカツなので、〈俊足〉スキルを勧めることはできない。
一方、アリサの方はアクションスキル枠にもしかしたら余裕があるかもしれない。
ええと今まで使ったのは……〈剣・斬撃〉〈剣・刺突〉〈俊足〉〈居合い〉のよっつか。
極東からここまでの旅がどれほどのものだったか知らないが、少ない気がする。
SPを余らせているのか、さもなくば何か別のスキルを習得しているかもしれない。
「アリサ、技は見せたあれですべて?」
「む。そうでござるよ。拙者の流派では基本となる技ばかりでござるが……」
「そっか。ディアーネみたいな連撃を習得できたら、攻撃力が跳ね上がるんだけど」
「拙者もできれば習得したいでござる。しかし時間が……」
「そうだね、無理をしても仕方がない。後衛との連携も考えないといけないしね」
ひとまずアリサの実力は測れた。
正直、厳しいがなんとか俺の〈ブリザード〉や〈レイ〉を当てられれば、優勢になるのだが。
その後は後衛とのコンビネーションの確認をして、夜に備えることにした。
その夜、見事に冒険者たちを狩った辻斬りシュンは、既にその場にいなかった。
銅ランクの冒険者パーティのようだが、やはり実力の差は歴然としている。
……これじゃSPを献上しているようなものだな。
被害が拡大するだけだ。
しかし領都の冒険者ギルド全体が辻斬り撃退に躍起になり始めている。
領主であるマーシャの父バードナ辺境伯がシュンに賞金を掛けたのだ。
街の治安を守るためとはいえ、シュンの実力は銀ランク冒険者パーティですら危険な領域にある。
冒険者ギルドを煽るのは完全な失策と言えた。




