44.命がけの肝試し
冒険者ギルドで依頼票を眺める。
最近は森の魔物にも飽きてきたので、少し目先を変えた依頼はないか、とディアーネに言われたのだ。
確かにマンネリではある。
ゴブリンは儲からない上に雑魚だし、森を少し入ったところの魔物も一通りは倒している。
かと言って、森のさらに奥にいる危険な魔物に手を出すのはまだ少し早い。
キマイラに勝てたわけだから負けることはないだろうが、新人のマーシャさんが戦力的にお荷物になるのが懸念だ。
せめて上級クラスになってくれたら安心なのだが、そのためのSPを稼ぐためにも討伐依頼は欠かせない。
……目先を変えた依頼ねえ。
討伐依頼でないとSPが稼げないので、俺の中ではひたすら戦闘を求めているわけだが、確かに領都近郊の森は味気ない。
とくにゴブリンがいただけない。
数ばかり出てくるが得られるSPは少ないし、死体から魔石をほじくり出すのがまた面倒なのだ。
……森以外で討伐系となると、領都だとないんだよなあ。
いっそ辺境伯領から別の領地に移動する手もなくはない。
もしくは領都ではなく、辺境の方へ移動するというのも手かもしれないが、どちらにせよ今すぐの話ではない。
ひとりで勝手に決めるわけにもいかないしね。
……ん?
俺は一枚の依頼票に目を留めた。
地下墓所のアンデッド退治。
なるほど、アンデッドかあ。
確かに厄介な相手だ。
ゾンビやスケルトンはまだいいのだが、ゴーストなどの非実体系のアンデッドには武器が効かない。
ついでに言えば、物理無効なので下位魔法でも倒せない。
中位魔法か、神官系が習得する対アンデッド用の攻撃魔法が必要になる。
いや以前にディアーネに話したことがあるが、【剣聖】には〈霊体斬り〉という非実体系の魔物を斬ることができるパッシブスキルがある。
今のところ、俺の把握している限りディアーネはパッシブスキルを持っていない。
やるか、〈霊体斬り〉習得のためにアンデッド狩り。
ただそうするとマーシャさんが暇になりそうだが。
一応〈気配察知〉という仕事もあるし、ゾンビになら弓での攻撃は有効だ。
うん、目先を変えた良い依頼だな。
なにより報酬が美味しい。
これに決めた。
「え、地下墓所でアンデッド討伐!?」
「はえー。アンデッドと戦うのは初めてだね」
ディアーネはのほほんと返してきたが、マーシャさんは「信じられない」と呟いた。
「え、駄目でしたか? 確かにゴーストとかスケルトンには弓が効かないですからマーシャさんは暇になりがちですけど……」
「そ、そうじゃなくて……っ、だってアンデッドだよ!? 夜中に地下墓所に入るなんて罰ゲームもいいところじゃない!!」
ああ、さては怖いんだな。
まあ確かに夜中に地下墓所に入ってわざわざアンデッド退治だ。
もの好きか報酬目当てでない限り、受けない依頼かもしれない。
「今回の依頼の目的は、ディアーネが〈霊体斬り〉を習得することです。非実体系のゴーストやなんかを剣で斬ることのできる技ですね。あると便利なので」
「あ、前に言ってた奴? 習得できたらいいね!」
ディアーネは乗り気だ。
しかしマーシャさんは余程、地下墓所に行くのが嫌なのか苦悩している。
「そんなに嫌なら、マーシャさんは留守番でもいいですけど……」
「え?! ああ、いや。行く。行くわよ。冒険者になったんだもの、アンデッドを怖がってる場合じゃないのよね」
「そうですねえ。マーシャさんが恐怖を克服する勇気があるなら、ぜひついてきてください。気配を探れると効率がいいので」
「はあ~……でも弓が効かない相手に無力ってのは辛いわね。何か無いの、レイシア?」
「うーん、神殿で聖水でも買います? 矢に振りかければゴーストも一発ですけど」
「え、聖水ってそんな効果があったの? 知らなかったわ」
「でも今回はディアーネに〈霊体斬り〉を習得して欲しいので、無理にマーシャさんが戦う必要はないですけどね。弓で倒せるのはゾンビくらいでしょうから、ゾンビが出たらお願いします」
「うう、分かったわ」
かくして俺たちは地下墓所のアンデッド退治へ向かうことにしたのであった。




