40.俺たちにかかれば雑魚よ
農村では銀ランク冒険者パーティと銅ランク冒険者ふたり、鉄の冒険者がひとりと大所帯でやってきたことに歓迎の意を示した。
なんでもビッグディアは複数いるらしく、正確な数は分かっていないとのこと。
「片っ端から狩ればいいのね。じゃあ早速、今から森に入るわ」
マーシャさんは予め分かっていたことだからと、怖気づくこともなく短弓を手にむしろウキウキしながら森へ向かう。
だからつい話しかけてしまった。
「……楽しそうですね」
「うん? ええ、楽しいわよ。狩猟が趣味と言ったでしょう。普段は魔物が間引かれて管理された森での狩りしかできないから、魔物を狩るのは楽しみなの」
「そ、そうですか」
まあ銀ランクパーティの『戦神の斧』もいるし、俺たちだっている。
危険はないだろうから、マーシャさんには存分に狩りを楽しんでもらうこととしよう。
「ッ――!」
シュパァン!!
短弓から放たれた矢が吸い込まれるようにビッグディアの首筋に突き刺さった。
マーシャさんは狩猟が趣味というだけあって、想像以上の弓の腕前だ。
ともあれ群れるビッグディアに対してマーシャさんひとりでは狩りきれない。
一頭を遠距離から仕留めたら、後は俺たちの仕事だ。
「〈ウォータースピア〉!」
俺も負けじと遠距離からビッグディアを狩る。
また『戦神の斧』の斥候も弓から矢を放った。
残りはディアーネと『戦神の斧』の前衛たちが走り込み、掃討した。
「ん~気持ちいい! やっぱり魔物は一味ちがうわねえ」
「さいですか」
「まず身体が大きいのと、それでいて俊敏なところ。狩りの獲物としてこれ以上おもしろいのはいないわ」
「……しかし、数が多いですね。もう十頭は狩ってますよ」
「そうねえ。まあ狩れるだけ狩りましょう。なんてったってレイシアがいるんだもの。獲物が荷物にならないなんて反則でしょ」
俺は絶命したビッグディアをアイテム袋に収納していく。
妖精からもらった収納魔法という触れ込みだが、付け加えて下位魔法なら幾ら撃っても魔力が枯渇しないという設定も追加された。
実際もう十二発以上、下位魔法を撃っている。
魔力を温存しないのか? という『戦神の斧』の問いかけに、やはり〈MP軽減〉を習得している魔法使いはほぼいないと考えて良さそうだなあ、と思った。
そんなわけで快調に狩りを続けていると、森の奥から数頭のビッグディアと、一際大きなビッグディアの個体を発見する。
『戦神の斧』のリーダーが声を抑えて「あれは恐らく群れのリーダーだろう」と言った。
通常の個体より見た目通り強いらしい。
「よおし、いつも通り私とレイシアが撃ったら、前衛に任せるから。行くよ、レイシア!」
「はい」
言うが早いか短弓から放たれた矢は、しかし群れのリーダーの表皮に突き刺さらず弾かれた。
俺は〈ウォータースピア〉で取り巻きのビッグディアを狙い倒すことに成功する。
「むぅ、この弓じゃちょっと強い魔物には通じないってわけ?」
不機嫌そうにマーシャが呟く。
前衛たちが走る。
魔物は動物と違って人間を前にして逃げることはまずない。
全力で襲いかかってくる習性を持っている。
だから、ビッグディアのリーダーと取り巻きも、前衛たちに向けて走り出した。
「突っ込んでくるぞ、気をつけろ!!」
『戦神の斧』のリーダーが警戒を発する。
矢を弾いたということは、それなりの防御力を有しているはず。
その突進は牡鹿の角を振るい、前衛たちの勢いを削ぐ。
そこへ取り巻きたちが蹄で踏みつけてくる。
ディアーネは〈バックステップ〉して、冷静に〈剣・斬撃〉〈剣・斬撃Ⅱ〉を素早く放った。
取り巻きの一頭をそれで屠ると、続いて別の取り巻きの方へ歩みを進める。
銀ランク冒険者たちも負けじと群れのリーダーを相手取っていた。
群れのリーダーはふたりの銀ランク冒険者と互角に渡り合っている。
――ちょっと強すぎないか、群れのリーダー?
違和感は現実になった。
鋭い牡鹿の角が帯電する。
それを見た『戦神の斧』のリーダーが驚愕に声を上げた。
「なっ――!?」
そして電撃が周囲に放たれた。
ビッグディアに電撃を放つ能力なぞない。
あれは、
「気をつけろ、ソイツはエレクトロディアだッ!!」
俺は叫んだ。
エレクトロディアはクリムゾングリズリーと同格の魔物だ。
角による突進、蹄による踏みつけ、そして角から放たれる電撃。
特に電撃は周囲を薙ぎ払うように放たれるため、角が帯電したら距離を取らなければ巻き込まれる。
ダメージを負ったのは、『戦神の斧』のふたりとも。
ディアーネは取り巻きを相手取っていたので巻き込まれずに済んだ。
マズいな、想定外の事態だ。
俺は距離を少し詰める。
あまり遠くからだと魔法を外す恐れがあるからだ。
電撃をくらって怯んだふたりに蹄の攻撃が放たれる。
しかしそこへ、『戦神の斧』の四人目、神官が〈ヒーリング〉を放った。
間一髪、〈ヒーリング〉で電撃から立ち直ったふたりは蹄の攻撃を回避。
一旦、距離を取ってエレクトロディアを挟むように陣形を組み直す。
「〈アイスボルト〉!!」
俺はすかさず魔法を放った。
氷の矢がエレクトロディアに突き刺さる。
着弾点が凍りつき動きを鈍らせた。
「氷属性の魔法か……助かるぞ!」
『戦神の斧』のメンバーが代わる代わる攻撃する。
角が帯電したら離れ、距離を取る。
さすがは銀ランク冒険者たちだ、エレクトロディアだと分かればそれに応じた動きをして、確実に削っていく。
俺の魔法の援護射撃もあり、途中からディアーネも参戦したことで、一分とかからずにエレクトロディアを倒した。




