37.あの女、再登場
バードナ辺境伯は、隣街まで移動するらしい。
その護衛に何故か俺たちが混ざることになった。
辺境伯と言えば国境の守護を任されている大貴族だ。
当然、自前で軍事力を持っている。
騎士もいるだろうし、兵士もたくさんいる。
随行する騎士は当然いるだろうが、なぜさらにその上に冒険者を入れるのか?
よく分からないまま、護衛依頼当日がやって来た。
ディアーネが辺境伯のお屋敷を見上げて口をポカンと開けている。
大きいのは分かったから、せめて口は閉じなさい。
「あ、君たちか。挨拶するのは初めてだね。銀ランク冒険者パーティ『戦神の斧』だ。今回の依頼は合同らしいから、よろしく頼むよ」
大柄な斧戦士が礼儀正しく挨拶をして来た。
銀ランクパーティ『戦神の斧』は四人パーティで、二人の前衛戦士と斥候と神官で構成されているようだ。
装備を見ればだいたい見当はつく。
「初めまして。銅ランク冒険者のレイシアです。こっちはディアーネ」
「よろしくお願いします、ディアーネです!」
何か微笑ましいものでも見るような温かい視線を四人から注がれているが、見た目が十歳の女の子ふたりを歴戦の冒険者が見ればそうなるのも無理はないか。
女性神官が「可愛い……」と呟いたのは聞こえているぞ?
「俺たち『戦神の斧』はまだキマイラを倒したことがないんだ。狙ってたんだけどね。まさか鉄の冒険者に取られるとは思わなかったよ」
「ええと……すみません?」
「いやいや、いいんだ。討伐依頼ばかり受けているようだから実力は疑いもない。何より優秀な魔法使いがいるのは、合同パーティとして見たときにありがたいからね」
魔法戦力に乏しい『戦神の斧』にとって俺は期待の魔法使いらしい。
斥候の弓しか遠距離攻撃手段がなさそうなので、苦労することも多そうだ。
「さて、門の前で立ち話もなんだから、入ろうか」
「そうですね」
いよいよ辺境伯の屋敷に入るときが来た。
俺たちだけじゃ気後れすると考えて、彼らは門の前で待っていてくれたようだ。
ありがたい。
見た目ゴツいけど紳士だな、このリーダー。
屋敷の応接室で待たされることしばし。
出立の準備ができたとのことなので、俺たちは屋敷の門の前にある馬車のもとへ向かう。
辺境伯への挨拶という緊張するイベントをこなさなければならないからだ。
辺境伯はスラリとした痩躯で、灰色の髪と口髭がオシャレなオジサマだ。
騎士のひとりが辺境伯に何事か耳打ちする。
「うむ、そなたらが銀ランクパーティ『戦神の斧』と、銅ランクパーティのふたりだな。道中、よろしく頼む」
「はっ! 精一杯、務めさせていただきます!!」
「よ、よろしくお願いしますっ」
ビシィっと直立してなんとか声が裏返らないように挨拶できた。
ふと辺境伯の背後にドレスを着たご令嬢がいることに気づく。
あまりジロジロ見るものではない、と思ったが、その顔を見て俺とディアーネは固まった。
あれ、マーシャさん!?
そう、宿屋再建の依頼主であるマーシャさんだったのだ。
どうやら彼女は辺境伯にゆかりある人物らしい。
「こちらは私の娘のマーシャだ。銅ランクのふたりは面識があるそうだな?」
「え、は、はい」
ひらひらと笑顔で手を振るマーシャさん。
辺境伯の娘?
聞いてないんですけど……。




