28.レイシアの予想
苦い顔をする酒場の店主。
俺たちが「なぜ食事に訪れなくなったのか?」と問うたときの顔だ。
「……すまねえが、夜の仕込みがあるんだ。帰ってくれねえか」
チラリと俺たちが首からさげている冒険者タグを確認して、そう言った。
しかしディアーネがなんとか食い下がろうとする。
「でも! ほんとに料理は美味しいんです。味が変わったかどうかは分からないですけど、これまで常連だった人たちにも満足してもらえると思うんです!」
「……いや、そういう問題じゃねえんだが。ああもう、とにかく帰ってくれ。俺はもうあの店には行かねえ」
「え、なんでですか!?」
俺はディアーネと店主とのやり取りを観察しながら、ある推測を立てていた。
もしかすると俺たち、核心的な情報を手にしていないのではないだろうか。
……もしかすると、アレかもな。
俺はゲーム『トゥエルブ』時代にもあったある店のことを思い出していた。
ちょっとつついてみるか。
「もしかして、店主が亡くなったから行く理由がなくなった、ということですか?」
「……いやそれは」
「あの宿の店主ってもしかして――情報屋だったんじゃないですか?」
「――っ、知っていたのか?!」
「いえ。推測ですよ。ただそういう店があるのは知っていましたし、もしかしたら、と。そもそも常連の客層がおかしいんですよ。他所の飲食店の店主や店員が頻繁にやって来るというのが、まず気になったところ。そして宿泊客がパーティ単位ではなくほとんどがひとりで部屋を借りていたこと。多分、パーティの情報担当である【斥候】ばかりだったんじゃないかな」
「チ。ああその通りさ。ディエゴの奴は裏に顔が効く情報通だったんだよ。俺たちは情報を買いに宿に通っていたのさ」
「はあ~……やっぱりか。これは常連さんに戻ってこいと言っても無駄ですね。スザンナさんは旦那さんの仕事を知らなかったんですか?」
「ああ。裏の仕事には家族を寄せ付けてなかった。突然、亡くなっちまったもんだから奥さんには悪いが、あの宿に通う理由はもうねえんだ」
「分かりました。教えてくださってありがとうございます」
「いやなに。鉄の冒険者にしては筋がいいな。よく気がついた」
「ああ、やっぱり鉄程度のランクじゃ用事のないレベルの店だったんですね」
「そうだ。だから知らねえだろうと思ったし、鉄の冒険者を下手に裏に絡ませるのもよくねえと思ってな。でも自力で気づいたなら仕方ねえ」
話はこれですべてだ。
ディアーネはポカンと口を開けて呆けている。
「え? 情報屋って何?」
「ディアーネ、出直そう。どうやらリストの常連客に当たるのは時間の無駄らしい」
領都にしては安い宿代もこれで説明がつく。
情報を売るのが商売の基礎だったのなら、宿の経営は表向きの仕事に過ぎない。
あの宿の経営は情報料で成り立っていたのだ。
……これは宿代から見直さないと、経営的にもマズいな。
普通の宿屋として再出発する気がなければ、上手くいかないはずだ。
情報屋の店主はもういないのだから。




