24.世の中なかなかうまくいかない
「なるほど、またやったのか……」
「少し離れた村のファングボア一体だろ? 銅ランク以上は受けないよな」
「そこを狙った初心者騙しってわけか。手口が悪どくなってやがる」
冒険者ギルド近くにある酒場。
俺たちとテーブルを囲んでいるのは、この街で活躍している銀ランクの冒険者パーティ『旋風』の三人だった。
「しかしお嬢ちゃんたち、よく八頭もファングボアを狩れたな。普通の鉄だと死にかねないぞ」
「レイシアの範囲魔法で一発でしたよ!」
「へえ~。そりゃ凄い」
熱く語るディアーネと頭を抱える『旋風』の三人を横目に俺は料理をつまんでいた。
せっかくの奢りだ。
キッチリ食べておきたい。
「でもなんでギルド支部長と受付嬢は懲りずにまた悪事を?」
ディアーネは不思議そうに問うた。
「実はな、ギルド支部長は王都の冒険者ギルド本部の幹部にコネがあるらしいんだよ」
「ええ!? なにそれ……サイテー」
やっぱりそういう話か。
しかし王都ね。
国境のバードナ辺境伯領からかなり遠くにいるのに、影響力半端ねえな。
「レイシアちゃんだっけ? 君はこういう話に興味はないのかい」
四人は黙々と食べる俺に視線を向けた。
ディアーネからは白い目で見られている。
「いえ……でも何らかのコネかなにかでやり過ごしたんだろうな、とは思っていましたし。鉄の冒険者が吠えたところでどうにもならないでしょう?」
「冷静なだけか。よく頭が回る」
「しかし王都の幹部でしたか、こんな遠方まで影響力があるって凄いですね。もうギルド支部の監査に訴えたところでどうにもならないんじゃないですか」
「うーん、やっぱりそうだよなあ。なんとかしたいんだけど……」
『旋風』の三人は腕組みしながらうんうんと唸っている。
「ねえレイシア。どうにかならないの?」
「ディアーネ。どうにもならないから、困っているんだよ。銀ランク冒険者でどうにもならないのを、私たちでどうにかできるとでも?」
「えーレイシア冷たい!!」
「……まあ手があるとするなら、ギルドの枠組みを越えた権力に頼るくらいじゃない?」
「え、なんか方法があるの!?」
「ギルドの幹部のコネを超える権力といったら、もうバードナ辺境伯ご本人が直接、手を下すしかないんじゃない?」
俺の言葉に、『旋風』の三人が目を丸くする。
「え、レイシアちゃん、君そんなコネが?」
「ないです。だから無理ですってば」
「そうだよなあ……」
ふむ、銀ランク冒険者でも辺境伯にアポを取るのは難しいらしい。
ならば鉄の冒険者である俺たちにどうこうできる話ではないだろう。
「話を聞かせてくれてありがとう。ああ、ディアーネちゃんも遠慮せずに食べなよ」
「はい……」
どうにもならない暗い話題は変わって、『旋風』の三人が普段、受けている依頼の話などを聞くことができたのは収穫だった。
さすが銀ランク、ワイバーンを〈トルネード〉で撃ち落として前衛ふたりでタコ殴りにしたりできるらしい。
リーダーが風属性魔法に秀でているから、パーティ名が『旋風』なのだとか。
しかし聞いた感じでは、風属性以外の魔法が使えるという話はなかった。
もしかしたら、師匠の影響ってそれほどまでに大きいのだろうか。
下位属性の範囲魔法なんてゲーム中でもなかなか習得しなかったぞ。
というのも、〈トルネード〉は風属性+斬撃属性の魔法だからだ。
対して〈ブリザード〉は氷属性の魔法である。
もし斬撃属性に耐性のある魔物に撃った場合、〈トルネード〉は軽減されるというリスクがある。
下位属性はいずれも打撃、刺突、斬撃の物理属性を併せ持つので使いづらいのだ。
お腹一杯になるまでご馳走になって、俺たちは宿に戻った。




