23.正義感あふるる少女がひとり
「あら、依頼達成できたの? ふうん、やるじゃない」
カウンターのお姉さんに依頼票を提出して、成功報酬を受け取る。
「それでファングボアなんですが、解体とかってこちらでできますか?」
「ええ。解体を依頼するならお金がかかるけど……」
「いえ、場所だけ貸してもらえれば自分たちでやれます」
「そう? じゃあ裏の解体場にいるおじさんに言って場所を借りて頂戴な」
「はい」
俺たちは伊達に二年、故郷の森で狩りをしていない。
狩人のヒルダに教わって、魔物の解体を教わっていたのだから。
ファングボアは慣れたものだった。
「すみません、解体のために場所を借りたいんですけど」
「んん? おお、随分と可愛らしい冒険者だな。そっちの台が空いているから使うと良い」
「ありがとうございます」
さっそくファングボアを出して解体を始める。
「んんん?! いまどこから出した!!」
「そういう魔法なんです」
「聞いたこともないが。……小さいのに凄い師匠に師事したんだろうなあ」
魔法使いの凄さは師匠の凄さでもあるわけか。
既知のスキルしか習得できないこの世界では当然かもしれない。
サクサクと手際よく解体して、一頭目を処理した。
取り出しまするは二頭目のファングボア。
「おいおい、まだ持っているのか」
「全部で八頭あります。依頼票には書いていなかったんですけど」
「はあ? 依頼票にはなんて書いてあったんだ?」
「ただファングボアの討伐、としか」
おじさんの顔が険しくなる。
「……そりゃおかしいぞ。複数いるなら、その旨が記されておるべきだろ」
「まあそうなんでしょうけど」
「まあた、やりやがったのか、アイツら」
「? なにを誰がやったんです?」
「……いやな、実はここのギルド支部長と受付嬢がグルでな。依頼内容を軽いものに書き換えて依頼報酬の中抜きをしていたことがあったんだ」
「え、それって完全に犯罪じゃ」
「ああ。見事に監査に引っかかったよ。だが給料が少し減った程度の軽い処分だけで済んで、お咎めなしさ。またやりやがったのか……一体、どうなっているんだか」
「そうですか……」
話ながら手は止めない。
とりあえず八頭の解体をして、おじさんに精算を頼むことにした。
「うんうん、手際もいい。毛皮に傷もほとんどないな。良い腕前だよ」
素材をすべて売却した結果、俺たちの懐はかなり暖かくなった。
これで領都まで行ける。
「それでどうするの、レイシア。ギルド支部長とあの派手な受付嬢の悪事」
「うーん。どうしようもないな。私たちはただの冒険者。しかもランクは未だに鉄だ。ここで糾弾したところで聞き流されるかするだけだろう。領都に着いたら監査の人に指摘するしかないんじゃないか?」
「えええ、納得いかない……」
十歳の小娘ふたりが吠えたところで、なんにもならない。
しかし監査に引っかかって給料減額だけで済むというのもおかしな話だ。
もしかしたら、後ろ暗いコネでもあるのかもしれない。
だとしたらなおさら関わるのは止した方がいいだろう。
解体場からギルドに戻ると、大勢の冒険者が依頼を終えて戻っていた。
頭ひとつふたつ分くらい小さい俺たちを珍しそうに見るが、それだけだ。
別に絡んできたりするような輩はいなかった。
……こんな大勢の前で女の子ふたりに喧嘩ふっかける理由もないか。
かと思ってギルドを出ようとしたところで、話しかけてくる者がいた。
「なあ君たち、ちょっといいかい。ファングボア討伐依頼の件で聞きたいことがあるんだが」
「はい? ええと……」
「ああ、俺はここを拠点にしている冒険者でね。あそこのテーブルにいるパーティに所属している。君たち、依頼で妙な点とかなかったかい?」
「ギルド支部長とあの受付嬢が報酬を中抜きしている話ですか?」
「しっ! どうやらやられたらしいね。詳しく聞きたいから、夕食を奢らせてもらえるかな」
「どうする?」
俺はディアーネに問うたが、「もちろん全部、話しますよ!!」と鼻息を荒くしている彼女についていくことになった。




