20.ひとつのベッドで
野盗を殺した夜。
宿でお湯をもらい、身体を清めて就寝する。
メニュー画面を確認すると、割りとSPが増えているのが確認できた。
――そっか、人間を殺してもSPは増えるのか。
しかし野盗たち、俺が十三発目の〈ウィンドカッター〉を放ったときの驚き方が大げさだったな。
恐らく〈MP軽減〉を習得している【大魔術師】は相当レアな存在だということだろう。
メニュー画面のないこの世界では、既知のスキルの習得を目指す傾向にある。
例えばディアーネは【戦士】の間に〈ウォークライ〉を習得しなかった。
これは自警団員に〈ウォークライ〉の使い手がいなかったからではないだろうか。
雄叫びを上げる〈ウォークライ〉なら、一度でも見れば習得可能になるかもしれない。
しかしならば〈MP軽減〉は?
無限に下位魔法を撃てる姿を見て、〈MP軽減〉を習得できるようになるのだろうか。
もしかしたら、この世界で〈MP軽減〉を習得しているのは、俺だけである可能性すらあるぞ。
まあ仮定の話を考えても仕方がないか。
とりあえず今日の教訓としては、単発の魔法は回避されやすいということだ。
というわけで、【大魔術師】のスキル〈ブリザード〉を習得することにした。
これはいわゆる範囲魔法である。
氷属性なので当然、〈凍結付与〉も乗る。
消費MPがちょっと重くて三点、〈MP軽減〉で二点になるから六発しか撃てない。
それでも回避が困難で、うまくすれば凍結で動きを鈍らせることができる。
もっとも威力も中位属性らしく高いので、人間なら一撃かもしれない。
メニュー画面を閉じる。
「……ディアーネ、まだ起きている?」
「…………うん」
なんとなくそんな気がした。
初めての人殺しをまだうまく消化できていないように思えたのだ。
「こっちにおいで。一緒に寝よう」
「え? ええと……うん」
ベッドの端に寄り、ディアーネを招き入れる。
やはり十歳の少女に人殺しは荷が重かったようだ。
ディアーネは俺の胸に顔を埋めて、心中を吐露した。
「野盗が悪い奴らなのは分かっているの」
「うん」
「だから殺すのに抵抗はなかった。でも、手に残った感触が気持ち悪くて――」
「そっか」
俺はディアーネの両手をとって、両手で包み込むようにしてさする。
ディアーネが眠りに落ちるまで、そうしていた。
《名前 レイシア 年齢 10 性別 女
クラス 【大魔術師】
パッシブスキル
〈MP軽減〉
〈凍結付与〉
アクションスキル
〈ストーンハンマー〉
〈ウォータースピア〉
〈ウィンドカッター〉
〈アイスボルト〉
〈ブリザード〉
〈ヒーリング〉
控えスキル
〈農民の証〉
〈大魔術師の証〉
〈農業Ⅰ〉
〈槍・刺突〉
〈投石〉
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