19.野盗戦
開拓村と街との間は、稀に行商人が通るくらいだったが、街から街へと移動するにあたってはそれなりの人と物が動く。
それを狙った野盗が待ち伏せていることがあると、ディアマンドから聞いていた。
人通りがそれなりにあるのならば巡視が野盗を発見するのではないかと思うのだが、そうでもないらしい。
辺境にはそもそも巡視など滅多に来ない。
そして襲うべきではない相手に手を出すほど間抜けでもないらしい。
逆に言えば、十歳くらいの少女ふたりは襲うべき相手とみなされるわけだ。
冒険者登録をして一泊してから街を出て、次の街へ向かう道すがら、俺たちの目の前には小汚い野盗たちが手に手に武器を持ち、舌なめずりをしながら俺たちを値踏みしていた。
「まだガキだがなかなかの上玉だ。良い値で売れるぜ」
「見ろよ、鋼の装備だ。どこのお嬢様だ?」
「おい片方は魔法使いみたいだぜ。怪我しないように囲め」
ぞろぞろ。
結構な人数だ。
「連中は魔物と変わらない。遠慮せずに斬り殺して」
緊張しているディアーネの耳元で囁いた。
ディアーネは剣を抜くと、ふう、と息をついて落ち着いた動作で構えた。
「おいおいやる気か? 痛い目をみたいらしいなあ」
凄んで見せる野盗の親玉の実力は未知数だが、持っている得物はなかなかの業物だ。
鈍く輝く剣を手にした親玉は、人を斬るのに躊躇するような人種ではなさそう。
俺はなんとなく不安を感じて、背中合わせになっているディアーネに声をかける。
「親玉は私がやる。雑魚は任せていい?」
「……分かった」
「じゃあ行くよ。――〈ウィンドカッター〉!!」
風の刃が親玉を狙って飛ぶ。
意外なほど俊敏な動きで俺の魔法を回避すると、剣を振り上げて勝ち誇った顔で襲いかかってきた。
「どうやら痛い目みたいらしいぜ!! 野郎ども、このガキどもに現実の厳しさって奴を教えてやれ!!」
「「「おう!!」」」
ディアーネが駆ける。
野盗の振るった斧の攻撃を〈スウェイバック〉して回避して、〈剣・斬撃〉を見舞った。
綺麗に手首を刎ね飛ばして武器を失った野盗に連続攻撃の〈剣・斬撃Ⅱ〉を繰り出す。
さて、俺の方は親玉をなんとか仕留めなければ。
「〈ウィンドカッター〉!!」
「はン、当たるかよぉ!!」
人間相手に魔法を撃つのは初めてだ。
ちょこまかと鬱陶しい。
いっそ距離を詰めてくれれば当てやすいのだが、それは向こうも織り込み済みだ。
恐らく俺のMP切れを待つ作戦だろう。
もっとも〈ウィンドカッター〉なら無限に撃てるわけだが、さて――?
「〈ウィンドカッター〉、〈ウィンドカッター〉、〈ウィンドカッター〉!!」
「うおっと、っとぉ!?」
連続で放たれる風の刃を器用に回避してみせる親玉。
なかなかの技量だ。
十二発目の〈ウィンドカッター〉を撃った途端に、親玉は豹変した。
「ははは、これで十二発だァ!!」
「〈ウィンドカッター〉!!」
「――――は?」
一気に距離を詰めてきていた親玉の首を刎ねた。
同時に距離を詰めようとしていた雑魚野盗たちがギョッとして足を止める。
「十三発目だと!? 一体、なんで――」
「〈ウィンドカッター〉!!」
遠慮なく雑魚を狩りに行かせてもらう。
ディアーネの方も順調に雑魚を殺して回っている。
人殺しに思うところはないのか、それとも心を殺して無心で斬っているのか。
どちらにせよ、趨勢は俺たちに傾いていた。
命乞いを始めた野盗を無慈悲に殺して、俺たちは血まみれの街道の真ん中で背中合わせに息を整えていた。
「大丈夫、ディアーネ?」
「……うん」
「そっか。じゃあ親玉の持っていた剣だけ拾って、行こうか」
「……うん」
親玉の持っていた剣はやはり業物だった。
《鋼の剣 武器 レアリティ6》
どの辺が業物かと言えば、ディアーネの剣はレアリティ5なのだ。
同じ鋼の剣でも、レアリティが一段階違う。
まあだからと言って、強い方に持ち変えようなんてゲスなことはもちろん言わない。
野盗の親玉が使っていた、恐らくたくさんの罪のない人々を斬った剣だ。
街に着いたら売っぱらうのが良いだろう。
俺たちは野盗たちの死体を踏み越えて、次の街へと進んだ。




