同じクラスの女子
朝食を食べ終え、俺は先に玄関前で待っていた。やっぱり。女の子は準備に時間が掛かるんだな。
しばらくすると、笑顔の菜枝がトコトコとやって来た。ふんわりした空気に俺は心臓が高鳴った。
「…………」
「あの、兄さん。準備が出来ました」
「そ、そうか。行くか」
「はい」
完全に見惚れてしまっていた。
これから、こんな可愛い義妹と登校するんだよな。今まで一人だった俺が女の子と一緒に……。
歩けば、菜枝もついてくる。
俺の横を健気について来て、まるでインプリンティング直後の雛鳥だ。小さくて可愛い。しかも、天使の微笑みまで向けてくれていた。
「そういえば、菜枝って俺と同じ高校だったんだな。気づかなかったよ」
「実は、今まで女子高だったんですよ。だから、兄さんの高校にはまだ転校したばかりなんです」
「そうだったのか。転校って、わざわざ?」
「通うなら兄さんと同じ高校がいいなと思ったので。同棲する前に手続きを済ませておきました」
……俺の為に?
なんて嬉しいことを。
まさかそこまで合わせてくれるとは思わなかった。
そんな事情を聞きながらも、歩いて学校に到着。校門前ともなると、ジロジロ見られるようになった。
さすがに菜枝が目立つな。
このクリーム色のサラサラ髪が靡くだけで人々を魅了する。男なんて一発で釘付けだ。俺もずっとドキドキしっぱなし。
「菜枝の学年は一年だよね」
「……そうなんです。兄さんとは離れ離れに……寂しいです」
肩を落とす菜枝は、不安な顔をしていた。まだ転校してきたばかりだし、友達もいないだろうからなあ。なら、ここは俺が全力でサポートしないとな。
「困ったことがあったら何でも言ってくれ」
「頼りにしています、兄さん。では……わたしは教室へ向かいますね」
そう言う菜枝は、俺の裾を引っ張っていた。やっぱり不安なんだ。
「仕方ないな。もし緊急なら連絡をくれ。ほら――ライン交換しよっか」
「そうでした。兄さんと連絡先を交換していませんでした。今直ぐしましょう」
菜枝もスマホを取り出し、俺は電話番号で追加した。これで交換完了。俺の友達リストに初めて“女の子”が追加された。
いや、厳密にはもう一人登録されている。
疎遠になった姉だ。
まあ……どうでもいい存在だ。
忘れよう。
「これでいつでも連絡を取り合える」
「ありがとうございます。少し、不安が取り除けました」
「それは良かった。じゃ、俺は行くから……また昼に」
手を振って別れ、俺は教室へ。
……大丈夫かなあ。
――二年の教室へ。
扉をガラッと開けて窓際の席へ。俺のような陰の者には、隅がお似合いだ。これでいい、目立たず平和に毎日を暮らす。
無用なトラブルは避け――菜枝と暮らせれば俺はそれでいい。
だが、今日はちょっと違ったらしい。
同じクラスの女子が話しかけてきた。ショートヘアで可愛いな。
「ねえ、君」
「お、俺か。なにか用?」
「うん。今日さ、すっごく可愛い女の子と登校していたよね」
「なっ……見ていたのかい」
「仕方ないよ、彼女可愛いもんね」
「彼女っていうか、俺の妹だから……別にいいだろ」
「ああ……やっぱりね」
「やっぱり?」
どういう意味だ。なにを知っているんだ、この女子は。てか、誰だっけ。初めて声を掛けられたから、名前なんて知らなかった。
そもそも同じクラスの女子との接点なんて今までゼロに等しかった。今日が初めてかもしれないな。
「私は『天笠 薺』よ。こう言えば分かるでしょ」
「え……天笠?」
「そう。じゃあ、ホームルームが始まるから……また後で」
天笠って……まさか、菜枝の実家の!
つまり、あの娘は菜枝の姉ってところかな。でも、姉妹がいるなんて聞いてないぞ。……それとも、今まで紹介されず会う機会がなかったのか。
混乱しているとラインが飛んできた。菜枝だ。
菜枝:兄さん、さっそく送ってみました
來:ああ、そろそろホームルームだ
菜枝:その前に写真を送っておきます。昨晩のですけど
送信されてくる写真。
受信が終わると――それは菜枝の“胸の谷間”の写真だった。……こ、こんなところで! も、もう……えっちな義妹め。あとでお仕置きだな。