甘々のバスルーム
「菜枝、大胆すぎるだろ……」
「住まわせてもらうんです。これくらいは……しないと」
「だけど――」
「いいんです。知らない仲ではないですし、それに……子供の頃から兄さんのことは特別な存在だと思っていたんです。だから……その、お風呂……一緒に入りましょう」
背中を押されてしまう俺。
抵抗する気力もなく、脱衣所へ連れてかれてしまった。
「「…………」」
制服を脱ぎ始める菜枝。
俺はずっと背を向けていた。
……無理だ、脱ぐとか。
恥ずかしすぎるし、なによりも菜枝の裸を見られない。女体耐性はほとんど無いといっていい。見た瞬間、死を彷徨う自信がある。
けれど、菜枝は全部脱いでしまったようだ。
「兄さん、わたし……先に入っていますね」
「お、おう……。い、良いんだよな。急に気が変わって叫んで通報するとか無しだぞ」
「そんなことしません。だったらもうこの時点で、そうしています」
「それもそうか」
このまま菜枝を放置しておくわけにもいかない。俺は腹を括り……服を脱ぎ始めた。せめてもの抵抗で腰にタオルは巻いた。これくらいはいいだろう……。
多分、菜枝もバスタオルを巻いてはいるだろうし。
俺はバスルームの扉を開けた。
「「…………」」
お互いに見合って、固まった。
目の前の菜枝の姿に俺は仰天した。……タオル一枚も巻いていない、生まれたままの姿だったからだ。丸裸じゃないか。
「……菜枝!」
「だ、大丈夫です。胸と股には“絆創膏”を貼ってあるんです。これで見えませんから……」
そうだったのか。
確かに肝心な部分は見えていない。サイズの大きい絆創膏で上手く隠しているようだ。……とはいえ刺激が強すぎるな。
名画の女神が飛び出してきたような――そんな神々しさを感じた。スタイル抜群、手足もスラッと伸びて無駄が一切ない。
それなのに巨乳とか……俺には勿体ない存在だ。俺如き童貞野郎が菜枝という神聖な存在を愛でて良いのか。
ただ見ているだけで圧倒的な背徳感に支配されかけていた。
見惚れていると、菜枝は恥ずかしそうに背を向けた。
「……兄さん、そんなにジロジロ見ないで。恥ずかしい、から」
「そ、そうだな。背中を流してくれるんだったな、椅子に座るよ」
動揺しまくる俺は、とにかく椅子へ座った。やばい、やばい、やばい……心臓が、手足が震える。脳すら震えていた。
初日でお風呂はやりすぎた。
けど……けど、なんだか嬉しい。
「では、お背中を流しますね」
「あ、ああ……俺は前を向いているから」
シャワーを手にする菜枝は、さっそく俺の背中を程よいお湯で流してくれた。……んぉ、気持ちい。まだお湯が流れているだけなのに、こんなに心地よいとは。
「次に……わたしの体を使って……」
「ちょ、いきなり! それはダメ! せめて手で」
「…………はい」
「なんでそんなションボリするの」
「兄さんに喜んで欲しかったので」
「十分嬉しいよ。だからせめて普通に頼む」
「分かりました。では手を使って」
細い指が俺の背中に触れた。
……わっ、くすぐったい。
「……ッ」
「ど、どうしました、兄さん」
「菜枝の指の感触にゾワゾワしたんだ。良い方でな」
「良かった」
安心して菜枝は洗い流してくれた。
けど、なんだろう。
僅かに息が荒いような。
「どうした、菜枝」
「そ、その……男の人の体を見るのも初めてなのですが、兄さんって鍛えているんですね。その、たくましいなと思ったので……」
俺は無駄に筋トレだけはしていた。以前はヒョロガリでヤバかったからな。それに、なにかあった時に自分の身を守れるようにしたかった。
トレーニングのおかげか、最近は腹筋が割れたり、体に変化が見られた。
まさか、菜枝に披露することになろうとはな。
「半端なマッチョマンで済まないな」
「いえ、わたし……マッチョ好きです。そ、そのぉ……腹筋、触っていいですか」
「マジか。いいけど、触るだけだぞ」
「……はい」
後ろから手を伸ばしてくる菜枝。
少し密着しかけていて胸が当たりそうだ。いや、当たってるかも。緊張しすぎて分からん。
頭の中で暴走していると、菜枝の指が俺の腹筋に触れた。
「ひゃああ!?」
「に、兄さん!?」
「……すまん、つい叫んでしまった」
「敏感なんですね。兄さんってば可愛いです」
「……うぅ。もう身が持ちそうにない、俺は出るよ」
「え、もうですか。もう少しだけ」
これ以上は無理だった。
俺はとっくに限界を迎えていたんだ。
菜枝の裸だけではない、息遣いや仕草が目の前にあるだけで心臓がどうかなりそうだった。
――俺は逃げ出すように風呂を出た