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義妹が可愛すぎて同棲生活が大変です  作者: 桜井正宗
God does not play dice. 同棲生活 - 2

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神はサイコロを振らない - God does not play dice

 屋上には誰もいなかった。

 珍しいこともあるんだ。


 でも、そんなことはどうでもいい。

 菜枝に今の危機的状況を教えないといけない。……きっと、ショックだろうな。


 出来ることなら言いたくはない。


 けれど、隠したところで……いつかはバレる。なら俺から言ってやろう。



「なんでしょう、兄さん」

「実は……天笠家が動き出した。親父さん、菜枝を連れ戻す気だ」



 簡潔に言うと、菜枝は少しだけ沈黙したが動揺はしていなかった。むしろ、事態を予想していたかのように納得していた。意外だな……。



「そうですか。お父様が日本に戻ってきていたのですね」

「俺は親父さんを説得しようと思う」


「兄さんが? そ、それは……でも」


「安心しろ。俺は菜枝を守りたいんだ」

「泣きたいくらいに嬉しいです。でも、兄さんを巻き込むわけにはいきません。わたしに任せてください」



 俺の手を握る菜枝は、優しい瞳で見つめてきた。そんな目で見られると、俺は……気持ちが揺らぐ。



「……ダメだ。同棲生活が終わってしまったら嫌なんだ」

「兄さん……それ、すっごく嬉しい。わたしだって同じ気持ちですから」



 ついに菜枝は涙を零した。

 感情を押し殺して、ずっと堪えていたのかも。


 これが菜枝の想いだ。

 尚更、俺は諦められない。


 今はせめて、菜枝を抱きしめてやろうと――思った、その直後だった。



 屋上の扉がガタンと開いた。



 そこから現れたスーツ姿の男。

 眼鏡の奥には鷹のように鋭い眼。……あの優しさと厳しさを併せ持った目。忘れるわけがない。


 背が高くて、高級腕時計がいつもギラついていた。


 今日も同じような格好で、容姿も変わらない。当時から歳を取っていないように見える。若々しい風貌は、三十代と言われても信じるレベルだ。



 ていうか、なんでここにいるんだよ……。



「……」

「……お父様」



 菜枝の親父さんは、黙ったままこちらに歩み寄ってきた。ゆっくりと、規則正しく歩いてくる様は……どこか不気味で威圧的でもあった。


 なんなんだ……この重苦しい空気。


 ごくりと息を呑むと、親父さんは菜枝の目の前で足を止めた。



「菜枝、我が天笠家に戻っ――」

「嫌です」



 即答する菜枝は、俺の後ろに隠れた。


 ……おふぅ。


 容赦ないな。



「そうか。やはり、君かね……君が菜枝をこんな風にしてしまったのか」



 ギロッと睨まれる俺。

 怖ェ……殺される気配しかない……!


 怖すぎてブルブル震えそうになるが、俺は菜枝の為にも平静を保った。



「天笠さん、菜枝は自らの意思で俺との生活を望んだんです。娘の気持ちを尊重してやるべきではないですか」


「気持ち? それがどうかしたかね。菜枝は、我が家の娘。お見合い相手も決まっていてね。海外の貴族と婚約を交わすんだ。となれば、我が家は安泰……。

 天笠家と菜枝の幸せの邪魔をするというか?」



 ……な、なんだって。


 お見合い?

 婚約?


 それが菜枝の幸せ……?



 ふざけるな!!



 そんなものは一方的な押し付けだ。自由もなければ、選ぶ権利すらもないじゃないか。それが嫌で菜枝は家を出たはずだ。


 なのに……!



「お父様、わたしは兄さんと幸せに暮らしています。この先だってずっと……だから、邪魔をしないでください」


「……お前の意見など求めていない。それより、少年、この金額で手を打たないか」



 親父さんは懐から札束を取り出した。……ま、まてまて。これ、いくらだ!? こんな分厚い束は見たことがないぞ。


 百万円はあるんじゃないか……?



「ば、買収……」

「いやいや、これは菜枝を保護してくれた謝礼だよ。足りないのなら、一千万円でもいい。そうだ、今直ぐ返事をしてくれるなら一千万円で示談としよう」



 ……金で解決しようって魂胆か!



 ありえない!!

 断じてありえない!!



 天笠さんが『クソ親父』と連呼する理由がよく分かった。



「断る」

「……今、なんと?」


「断ると言いました。天笠さん……これまでずっと金で解決してきたのでしょうけど、俺はそうはいきませんよ。金だけでどうにかなると思ったら、大間違いだ。

 俺は弱い人間です。優柔不断でどうしようもない男です。――でも、せめて、自分でサイコロを振って先へ進みたい」



 俺がそんな風に言い返すと、親父さんはビックリしていた。それから豪快に笑ったんだ。



「……く、くはははははは。ふははははははは……!」


「な、なにが可笑しいんですか」


「いや、すまない。その言葉……ある男も同じことを言っていたからな。昔を思い出して、思い出し笑いをしてしまった。すまないね」


「そ、それって……」



 まさか、ウチの親父じゃ……。

 うわ、俺ってば無意識の内に親父と同じこと言っていたのか。



「まさか人生で二度もサイコロで説得されるとはな。笑うしかないよ。馬鹿っぽいのに、妙に説得力がある」


「あ、あの……」


「もういい。神堂くん、君は最高の父親に恵まれたな。宗一郎(そういちろう)に伝えておいてくれ。私の“負け”だと」



 踵を返す親父さんは、寂しそうに背を向けた。



「お父様……!」

「いいか、菜枝。お前の人生はお前だけのモノだ。その道を決めた以上はな」


我儘(わがまま)な娘で申し訳ございません」


「知っている。お前は昔からそうだったからな……。強情で意地っ張りで……私に歯向かうばかり。だが、そこが可愛くてたまらんのだ」


「……わたし」


「気にするな。困ったことがあれば、いつでも連絡を寄越せ。……体調には気をつけるんだぞ」



 潔く去っていく親父さん。

 まさか、最初からそのつもりで……?

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