第9話 夢現
薄暗い廊下を通りながら、慎重に階段を下って行く。
シャワー室でもチラッと拝見したが、ルミスはエルフ族とあって華奢な身体付きだ。
それに加えてエルフ族は容姿も美男美女揃いなので、彼女もその例に当て嵌まる。
(綺麗な人だなぁ……)
私は肩を寄せながらルミスの顔を一瞬覗き込むと、その姿は一見すると育ちの良いお嬢様と呼ぶに相応しい。
階段を下った先には奈緒が教えてくれた共同部屋の扉がすぐに見えた。
預かった鍵で扉を開けると、部屋の中は上階の探偵事務所より物が散乱しており足の踏み場がなかった。
脱ぎ捨てられた衣服や食べかけのお菓子等が主に放置されており、衛生的に悪い環境だ。
これは予想もしていなかった光景なので、ほろ酔いの彼女をまずは横に寝かせるだけのスペースを確保しないと私も寝られない。
私は入口の壁際にルミスを座らせて、足元に注意しながら部屋の換気をしようと奥にある窓を全開にする。
心地良い夜風が部屋を循環し、ルミスの許可なく勝手に私物を捨てることはできないので一時的ではあるが大きなビニール袋に幾つかまとめて布団を敷くスペースだけは確保する。
一通りの準備が整うと、壁際に横たわっているルミスを再び介抱して彼女を布団に寝かせた。
「ふう……とりあえず、今日のところはこれで寝るか」
共同部屋の掃除は明日にでもルミスと協力し、私も異世界で魔王と対峙して元の世界へ戻り、緊張の連続で疲れが蓄積して眠気に襲われていた。
そのまま布団の上に倒れ込むと、私は目を閉じて眠ってしまった。
小さな光が差し込んだ空間に手を触れると、景色は誰もいない探偵事務所を映し出していた。
周囲に現実味がなく、これは夢なんだと私はすぐに悟った。
この手の夢は以前から経験のあることだ。
無意識に私はソファーへ腰を掛けると、別室のシャワー室から誰かが出て来た。
何故だか顔は光で遮られる形でよく見えず、目を凝らしながら確認するが誰だか判別できない。
私はソファーから立ち上がり、その人物を確認するために近寄ろうとする。
「ふふっ、捕まえた」
突然、正体不明の人物は近寄った私を逃がさないように抱き付いて見せたのだ。
しかも色気のある声でだ。
弾力のある柔らかい物が顔一面に接触し、私の身に一体何が起きているのか見当もつかない。
次第に意識は引き戻されるように天井の照明で私を覚醒させた。