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第87話 お化け屋敷

「それではこちらを手にして下さい」


 私と琉緒は係員から、重厚感のある模造銃を受け取る。

 お化け屋敷に入ったつもりだったのだが、ここで誤算が一つあった。

 最近、お化け屋敷がリニューアルしたことだ。

 係員から簡単な説明を受けると、元来のお化け屋敷と違って模造銃を使ってお化けから身を守り、出口を目指していくとのことだ。


「信也君、ここのお化け屋敷の噂って知ってるかな」


「いや、何かあるのかい?」


「実はね、無事に生還したカップルは末永く結ばれるって噂なんだよ」


「へぇ……」


 動物園でもそうだったが、この手の噂はあまり信じていない。

 そんなことも加味されて男女のカップルで盛況だ。


「ふふっ、無事に出られたら信也君と末永く結ばれるね。一緒に頑張っていこう」


「う……うん、頑張るよ」


 係員から最後に気分が悪くなったりその場から動けなくなったりすれば、別室のモニターで係員が待機して適切に出口まで誘導してくれるそうだ。

 細かな注意事項を聞き終えると、変わった趣向のお化け屋敷が開始された。

 リニューアルされたお化け屋敷の設定では私達は吸血鬼に支配された領地から脱出する領民という設定で、吸血鬼に操られたお化け達を潜り抜けて領内を脱出するのが目的のようだ。


(似たような吸血鬼が身近にいるんだよなぁ……)


 私はぼんやりと設定に似せた吸血鬼の顔を思い描いていると、琉緒は私の腕を掴みながら出口を目指し、その後方から女性のくしゃみが聞こえた。


「やれやれ、誰かが私の噂でもしていたのかな」


「多分、クシャちゃんが貴女の顔を想像していたかもしれませんわね。このお化け屋敷の設定にある吸血鬼って、貴女と一致しますわ」


「私は若くて可愛らしい女の子しか興味ないんだ。こんな吸血鬼と一緒にされるのは少々心外だね」


「はいはい、左様ですか」


「それに、聞くところによると上手く生還したカップルは末永く結ばれる特典もあるようだ。そうだなぁ……君と五百年ぐらい結ばれるのなら真面目に取り組んでいいかもしれないね」


「……ここでリタイアしてもよろしくて?」


「ふふっ、君は照れ屋さんだね。さあ、楽しみながらあの二人を追って行こうか」


 そんなやり取りをする、やる気に満ちた女性は早々にこの場から離れたい女性を強制的に連行する形で、こちらも出口を目指して行った。

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