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第85話 遊園地②

 休日の遊園地ともなると、どのアトラクションも賑わいを見せていた。

 その中でも、ジェットコースター等の絶叫系は有名なようで、時折稼働している絶叫マシーンから悲鳴にも似た声が聞こえてくる。


「間近で見ると、結構迫力あるね。一回だけ乗ってみたいなぁ」


 琉緒はうっとりした表情を浮かべながら空を見上げると、興味津々のようだ。


「琉緒ちゃんって、こういうのは割と平気だったりする?」


「一人だと怖いけど、信也君と一緒なら多分大丈夫だと思うよ」


 この手の乗り物は正直進んで乗りたいとは思わないが、琉緒の希望を叶えるために私は琉緒と絶叫マシーンの列に並ぶことにした。

 本当はメリーゴーランドや観覧車のような比較的落ち着いた乗り物を巡って行くつもりだったが、こうなった以上はもしもの時のために私がしっかり琉緒を支えるつもりだ。


(無様な姿を晒さないようにしないと……)


 魔王と対峙した時とは違う緊張感が芽生え始めると、私達の前に並んでいる琉緒と同い年ぐらいの女子高生二人も腕を組んで仲が良さそうな雰囲気だ。


「私は時雨にならセクハラされてもいいよ」


「なっ……いけません!? 姫様」


 絶叫マシーンから聞こえる叫び声や園内の陽気なBGMが入り交じっているおかげで、琉緒や周囲の人間には聞こえていなかったが、ダークエルフである私は危ない会話を聞き取ってしまった。


(仲がよろしいことで……)


 私は何も聞かなかったフリをして、前に並んでいる二人の女子高は順番が回ってきた絶叫マシーンに乗り込んで行った。


「次は私達の番だね。とってもドキドキする」


「俺もドキドキしているよ」


 そして絶叫マシーン初経験の二人は順番が回ってくると、緊張した足取りで乗り込んで行く。

 位置に着いた私達はお互いに顔を見合わせながら、絶叫マシーンは静かに動き出した。


(私はどんな顔をしていただろうか……)


 はしゃいだ笑顔を向ける琉緒に対して、私も同じような笑顔を作ることはできただろうか。

 もしかしたら、これから起こる出来事を予測して情けない顔を向けてしまったかもしれない。

 彼女を不安な気持ちにさせてしまったらと思っていた矢先に、強烈な突風が体全体を押し上げるような錯覚に陥り、その時点で私は腹の底から叫び声を上げていた。


「あはは! これ面白いね」


 私の叫びが虚しく響く中、琉緒は両手を広げて絶叫マシーンを堪能していた。

 とてもではないが、琉緒に返答や眼前の景色を眺める余裕は全くなかった。

 乗り終えた頃には、宙に浮いたような感覚で体幹がどうにも定まらない。


「信也君、大丈夫?」


「うん、ちょっと座れそうなところがあれば……」


 私は琉緒の肩に掴まって、適当に空いているベンチへ座らせてくれた。

 まるで二日酔いの人間を介抱するかのようだ。


「何か冷たい飲み物を買ってくるから、信也君はここでゆっくり休んでいてね」


「あ……ありがとう」


 私は琉緒の言葉に甘えながら、琉緒の背中を見送る。

 本来なら、私が琉緒を支える立場なのにと情けない気持ちになりながら、小さく息を吐いた。

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