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第83話 星空

 旧校舎からすぐ近くにある小さな丘で、私と琉緒は星空を眺めていた。

 佐伯から、ここは星空が綺麗に眺められる穴場で機会があれば一度見に行くといいよと親切に教えてもらっていた。


「わぁ! 綺麗なお星様が一杯だね」


 琉緒は満足気に私と腕を組みながら、目を輝かせている。

 自分一人で星空を見に行くのは少々気が引けていたので、琉緒のような女の子なら喜んでくれるだろうと思って誘ったのは正解だったようだ。


「うん、とっても綺麗だね」


 私は琉緒に同意しながら、彼女の顔を覗き込む。

 この星空より琉緒ちゃんの方がずっと素敵だよ、といった気の利いた台詞でも言えればいいのだが、持ち前の性格が邪魔をしてなかなか口にする勇気がない。

 恥ずかしさも去ることながら、もしかしたら嫌われてしまうかもしれないと脳裏を過ぎってしまう。


「でも、信也君が一番輝いて素敵だよ」


 私が躊躇していたような台詞を琉緒が平然と口にする。


「あ……ありがとう。そんなことを言ってくれるのは琉緒ちゃんだけだよ」


 ダークエルフの女性だからだろうか、口説き文句のような台詞を言われて私は胸がときめくような感覚に陥る。


「本当に嬉しいよ。まるで夢のような出来事で、夢なら覚めないでいて欲しい」


「私も同じ気持ちだよ。こうして信也君と一緒にいられるのなら、夢のままでいい」


 琉緒は勢いに任せて、そのまま私を押し倒すと、その胸中を語り出す。

 私が交通事故で亡くなった後の半年間は琉緒にとって地獄そのものだった。

 両親や奈緒の言葉もまともに届かず、琉緒の心には取り払えない闇が支配していた。

 こんな辛い思いをするぐらいなら、私も後を追って楽になろうと琉緒は考えていたぐらいだった。


「信也君がいない世界は私にとって辛いよ。そんな現実は絶対に嫌……」


「大丈夫、俺はここにいるよ。もうどこにも行ったりしないから」


 私は琉緒の心を落ち着かせるために彼女の背中を優しく擦った。

 異世界に転生して二十年の月日が経ち、琉緒にとって私はもう遠い過去の存在だと勝手に思い込んでいた。

 そして、幸せな家庭を築いているだろうと。


「取り乱したりして、ごめんね。もう大丈夫だから」


「本当に平気?」


「うん、それにこの星空は私と信也君を祝福しているような感じがして元気が湧いてきた」


 琉緒はゆっくり起き上がると、星空に向かって手を振って見せる。

 琉緒の取り払えなかった心の闇は私の存在により、この場を照らす星空のような光に移り変わった。


「もう少し、信也君と一緒に星を眺めていていいかな?」


「うん、勿論だよ。琉緒ちゃんとこうしていられるのは俺も幸せだよ」


 この時、さりげなく本音を口にした私は気付いていなかったが、琉緒の心はいつも以上にときめいていた。


「ありがとう……信也君」


 私は琉緒と並んで再び星空を眺めると、本当に星空が二人を祝福しているように思えた。

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