第72話 ドライブ
翌日、私は琉緒と学校へ登校する。
爽やかな風と日差しが心地良い天気は琉緒の心を表しているみたいだ。
「夜は楽しかったね。ベッドで信也君の嬉しそうな顔が忘れられないよ」
「う……うん、そうだね」
対して、私の胸中は穏やかではない。
昨晩は長耳をいじられたショックで記憶がうやむやであった。
今は魔法で普通の耳を保っているが、また不意に耳を触られたら魔法を維持できる自信がない。
「信也君と一緒に手を繋いでもいいかな?」
そっと私に手を差し出す琉緒は頬を染めながら懇願する。
私は一瞬思考が停止してしまったが、琉緒に気持ちに応えるように手を繋いだ。
「温かいなぁ。こうして信也君といると、私はとても幸せだよ」
「俺も……琉緒ちゃんと並んで歩けるのは同じ気持ちだよ」
私も頬を赤く染めながら小さく頷く。
学校へ近付くにつれて女子生徒達の姿もちらほら見え始めると、二人はそのまま学校の校門前まで他の女子生徒達に異様な目を向けられた。
「やあ、ごきげんよう」
校門の前には女子生徒達に笑顔で挨拶を交わす者がいる。
白い肌に修道服を纏ったその人に女子生徒達は心を奪われたように挨拶を返している。
「二人共、今日は揃って登校かい」
「おはようございます、ラーナさん」
私達に気付いたラーナは呼び止めると、相変わらず神秘的なオーラを放っている。
以前話してくれたように、血を吸うような感覚で女子生徒達から放つフェロモンを蓄えていたのだろうか。
朝の挨拶をそこそこ交わすと、二人は校門を潜って教室へ向かおうとするが、ラーナは私の腕を掴んで引き止めた。
「悪いが、今日は授業を休んで話しておきたいことがある」
「えっ?」
突然のことだったので、私は驚きを隠せなかった。
授業を休んでまでとなると、何か深刻な内容なのかと勝手に想像を膨らませてしまう。
「信也君……」
心配そうにする琉緒は心なしか私の手を強く握って手を放そうとしない。
「大丈夫だよ。琉緒ちゃんに黙って、どこにもいなくなったりしないから」
「本当?」
「約束はちゃんと守るよ」
琉緒の心情を察して、私は彼女を安心させるために頭を撫でて見せる。
「わかった、また後で会おうね!」
琉緒は私に元気一杯に手を振って別れると、名残惜しそうに一人で教室へ向かった。
「……さて、我々はこっちだ」
ラーナは私を校門の外へ案内を始めると、裏口に用意された送迎車へ乗せられた。
てっきり、理事長室へ案内されるのかと思ったが、ラーナと私は後部座席の隣同士で運転席にはカーキ色のトレンチコートを羽織った奈緒が待ち構えていた。
「出していいよ」
ラーナの合図で送迎車は発進すると、重苦しい空気のドライブが始まった。




