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第71話 分岐点

「ミイラ取りがミイラになるか」


 呑気にコーヒーを啜りながら、ベッドでイチャついている二人の様子を魔法の水晶玉で窺っている人物がいる。


「茶番だな。こうなることは予想ができただろう」


 煙草を咥えながら赤髪を掻き分けると、そもそもこんな仕事を割り当てた彼女の采配に呆れた口調で物申す。


「キャスティルはこの結果に不服かい?」


「余計な仕事が増えなければな」


 監視役は本来キャスティルが担当していた筈だったが、ミールの提案で突然変更になった。

 ふざけた女神だが、決して意味のないことはしない。


分岐点(ターニングポイント)さえ通過すれば、もう魔王の誕生はないだろう。全ては彼……いや、彼女の働き次第さ」


「その水晶玉に映っている姿だと、期待はあまりできそうにないんだがな」


 若いダークエルフの女性とお嬢様の女子高生。

 本来なら、もう出会う筈のなかった二人。

 これが奇跡的な運命の出会いならロマンチックではあるが――。


「根本の元凶を摘まない限り、延々と同じような事例は続くだろう」


「……ふう、そうだね」


 溜息と共に遠い目で天井を見上げる彼女に対して、どこか他人事のような振る舞いに怒りが湧いたキャスティルは彼女の胸倉を掴む。


「いい加減、この鬼ごっこにも終止符を打って先へ進まなければならない。創造神のお前がそんな調子では我々の敗北が目に浮かぶぞ!」


「私にもキャスティルのような情熱があればいいけど、生まれ持った性格はどうしようもない。鬼ごっこに志願してくれたキャスティルには感謝しているし、最善を尽くす覚悟はあるよ」


 ミールの瞳は一点の曇りもなく嘘を付いていない。

 その言葉は彼女の本心だろう。

 怒りが湧いている本当の原因は創造神ミールを頼らなければいけないことだ。

 一人ではこの鬼ごっこに終止符を打つことは不可能であり、自身の実力不足に頭に来ているのだ。


「まあ、何とかなるさ。今はこの二人の遊園地でのデートを見守るのが最優先だ」


「……そうだな」


 キャスティルは胸倉を掴んでいた手を放すと、銜えていた煙草を灰皿に捨ててその場を後にする。

 誰もいなくなった空間で、ミールは水晶玉をもう一つ出現させる。

 そこに映し出されているのは公園のブランコで一人悲しみにくれている琉緒。

 三崎信也が事故で亡くなったショックから立ち直れていない時だ。

 琉緒の背中から忍び寄る影。

 その影は琉緒に接触すると、一連のやり取りを終えて口元に笑みを浮かべる。


「さて……私もそろそろ戻ろうか」


 ミールは水晶玉の映像を閉じると、やりきれない思いでその場を後にした。

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