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第62話 深まる謎

 私は静まり返ったトイレから出ると、先程の濃密な時間を過ごしたのが嘘のように思える。

 ラーナの網を破ったのはミールという女神であり、ここへ訪れたのは魔王が誕生しないための監視が目的であり、私の存在が魔王誕生に関わる。

 結局、謎は深まる結果となった。

 次に出会えた時に全容が判明すればいいのだが――。


「あっ! 無事でよかった。大変だよ」


 佐伯が息を切らして血相を変えながら暗がりの廊下を走って来た。


「どうしたの?」


「さっき、食堂の方から派手な音がして様子を見に行ったら、食堂に続く廊下の一部に大きな穴が開いてたんだよ」


 佐伯は食堂がある廊下を指差すと、トイレからなかなか戻って来ない私の無事を確認できて一安心する。

 どうやら、何かが崩れるような音の正体はそれらしい。


「この旧校舎は築年数が古いから、結構ガタが来ているところもあるのよ。この前、少し廊下を走っただけで底が抜けそうな軋む音をさせて危ないなぁって思ってたのよ」


 たしかに佐伯の言う通り、旧校舎はお世辞にも外観や設備が現在の校舎に比べたら脆弱だ。

 それでも、学生寮として再利用する分には申し分ない物件だろう。


「寮の廊下も走ってはいけないよ。人とぶつかったら危ないからね」


 小さな懐中電灯を手にしながら、その光でラーナが私と佐伯を照らす。


「老朽化でガタが来ているのは事実だが、先程の衝撃で水道、ガス、電気が一部復旧できない状態に陥ってしまったのは厄介だね」


「えっ……じゃあ、明日の朝食はどうなるんですか?」


「冷蔵庫は電気が通っていないから、生の食材は廃棄だね。ガスや水道も同じく使えないから、しばらく寮の食堂は閉鎖だね」


 朝食の心配をする佐伯は食堂が完全に機能していないことをラーナから告げられると、落胆の色は隠せないでいる。

 復旧の目処が立たない現状では校舎にある食堂を利用することになるらしい。

 幸いにも食堂以外の電気は通っているようで、食事以外の私生活に支障をきたすことはないだろう。


「さあ、部屋に戻りなさい」


 ラーナに促されると、私と佐伯はそれに従い自分の部屋へ戻ろうとする。

 そしてラーナは懐中電灯を食堂に続く廊下を照らしながら、後始末の仕事が残っているので食堂へ引き返す。

 女神の一件をラーナの耳に入れておきたかったが、傍に佐伯がいたからそれは叶わなかった。

 もしかしたら、食堂の件と女神の件は繋がりがあるのではないか。


(一体、どうなっているんだ……)


 そういえば、廊下を行き来する私達の足音や廊下に穴が開くような音が響いたのに、キャスの姿が全然見当たらなかった。

 恋バナをして騒いで私達の部屋に乱入した彼女なら、真っ先に飛び出してその様子を窺いに来るところだろう。

 単純に既に寝ていて気付かなかっただけかもしれないが、それならかえって都合がよかったかもしれない。

 下手をしたら、騒ぎを駆け付けて私とミールの方に居合わせていた可能性もあった訳だ。

 悶々とした気持ちが芽生え始めると、私は今晩だけ佐伯の部屋で布団に潜った。

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