第61話 監視
「でも、デートに動物園へ誘ったのは君だろ? 結果的に彼女は満足していた筈だ」
「動物が好きだって話は聞いていたし、俺からデートを誘うのは人生で一番勇気を振り絞った場面だったよ」
退屈させないように綿密なデートの計画を組んで、私は初めて彼女にデートへ誘った。
断られたらどうしようかと不安であったが、あっさりOK。
むしろ、私から誘ってくれたことに対して凄く嬉しそうだったのを覚えている。
かくして、動物園でのデートはウサギを逃がしてしまうトラブル発生もあったが、次もデートをしようと約束を交わした数日後に私は交通事故に遭って三崎信也の人生は理不尽に終了してしまった。
「貴女は何でもお見通しな神様なんだろ? だったら、あの交通事故もどうにかしてほしかったよ」
「すまんね。一部の例外を除いて、人間に接触することはできないルールなんだよ」
私は眼前の女神にそれとなく愚痴をこぼすと、ミールは申し訳なさそうに返答する。
地球だけでも数十億人の人間がいる訳だし、異世界も含んで対処してたらキリがないのは重々承知している。
女神にとって、私の交通事故は些細な不幸の出来事でしかないのだろう。
「それで、女神様は何の目的でここに? 俺の恥ずかしい過去話を聞きに来た訳ではないのでしょう」
こうして接触している時点で、ミールが言っていた一部の例外に該当する案件なのだろう。
その理由を聞くのは怖かったが、私は息を呑んで次に女神が喋る言葉を受け入れる覚悟をした。
「ははっ、そんな身構えないでくれたまえ。目的は魔王が誕生しないための監視だ」
「えっ?」
私はポカンと口を開けて理解が追いつかないでいた。
可能性としては前世の記憶を保持している私の処遇について、何かされるのではないかと頭の片隅にあった。
「君をどうこうするつもりはないよ。君の存在は魔王誕生に関わるからね」
「それって、どういうことなんですか?」
私の心を見透かしたようにミールが答えると、外の廊下から何かが崩れるような音が響き渡る。
「やれやれ、タイムリミットだ。彼女と遊園地でのデートが終えた頃にまた現れるとするよ」
ミールは私を解放すると、白いローブを拾い上げると同時に奇妙な魔法陣が足元に浮かぶ。
魔法陣は眩い光を放ち、ミールを包み込んでその場から消えてしまった。




