第6話 お風呂②
「なっ……何なんですか!」
私は裸の女性を直視することができず、精一杯の抵抗を試みる。
ダークエルフに異世界転生してからは同族で年齢が近い子と一緒にお風呂へ入る機会は何度もあった。
その度に私の中で罪悪感は募るばかりであった。
頭の中身は男子高校生だった頃と変わらず、姿形は色香のある女性のダークエルフなのだから。
「ふふっ、お姉さんが綺麗に背中を流してあげるわね」
裸の女性はそんな私の気持ちを無視して、上機嫌で鼻歌交じりに私の背中を流し始める。
石鹸の泡立ちと良い香りが私を包み込んでいくと、裸の女性は私の長耳に気付いて驚いた声を上げる。
「えっ! 嘘でしょ……ダークエルフの女の子だわ」
エルフ族の特徴的な長耳に対して驚くのは普通の反応だが、彼女の場合その理由は違った。
明らかにエルフ族の存在を認知しており、この場にいることに衝撃を受けている感じだ。
「貴女は一体、誰なんですか?」
「私? ここで栗山所長のお世話になっているエルフよ」
「エ……エルフ!」
私は咄嗟に振り向いて女性の顔を確認すると、たしかにエルフ族の特徴的である長耳がしっかりあった。
それと同時に女性は私の長耳を石鹸で泡立った手で無造作に触り始める。
「そんな事より、長耳も綺麗にして差し上げますわねぇ」
エルフ族の長耳は敏感にできており、他人に触られるとどうしても身体が疼いた感覚に囚われてしまう。
「そこは……触らないで下さい」
「んー、よく聞こえませんわぁ。もう少し大きな声でお願いしますわ」
本当は私の声が届いているのに、女性は意地悪そうな声で長耳を洗い流している。
長耳を他人に触り続けられて、次第に頭が真っ白になっていくと足元がふらついて私はへたり込んでしまった。
「あらあら、だらしないですわね。でもトロンとした目で可愛く仕上がって私は好きよ」
女性はしゃがみ込んで私の瞳を覗き込むと、うっとりした顔で私を眺める。
鏡面台に映っている私は女性の言う通り、興奮気味でメスの顔をしたダークエルフ。
長耳を触られた余韻が身体全体を支配し、なかなか思うように身体を動かせないでいる。
「さあ、続きを始めましょう」
女性は優しく私を抱いて立たせると、また身体を洗い流そうと試みる。
私は目の前にいる女性に恐怖を抱いていた。
このままでは、私の貞操が彼女に奪われてしまうのではと直感が働いたからだ。
万事休すかと諦めたその時であった。
「何やってんだ! この淫乱エルフ」
シャワー室に奈緒が慌てて乱入して来たのだ。
「とりあえず、お前はここから出ていけ」
「所長! こんな可愛いダークエルフの女の子を保護していたのでしたら、私にも一言教えて下さっても……」
「いいから来るんだ!」
半ば強制的に裸の女性は奈緒に連行される形でシャワー室は静寂になる。
(な……何だったんだ?)
私は訳が分からず、身体を支配していた余韻も徐々に収まって平静を取り戻した。




