第57話 デジャヴ
上機嫌な佐伯は浴槽に思いっきり足を広げて、口笛を吹いている。
私も隣で遠慮がちになりながら、足を閉じて静かに天井を見上げる。
「やっぱり、でかいね」
「でかいって、何が?」
「クシャちゃんのおっぱいだよ」
突然、何を言い出すんだと私は慌てて胸を手で隠す。
私の胸を覗き込もうとする佐伯は恥ずかしい素振りを見せずに、初々しい反応をする私をからかって楽しんでいる。
そんな時だ。
乱暴に大浴場の扉が開き、誰かが入って来たのだ。
「おや、これは珍しい。今日のバイトは早く終わったんだね」
佐伯が視線を向ける先には真紅に染まった長髪に目付きが悪い外国人の女の子がいる。
「お前には関係ないだろ」
素っ気ない態度で返事をすると、こちらに見向きもせずにシャワーを浴び始める。
「彼女はキャス・ティールド。さっき話したバイトを掛け持ちしている子さ」
佐伯が代わりに自己紹介をすると、違うクラスの同学年で私と同じく編入して来た子らしい。
真紅の長髪をゴムバンドで後ろに束ねると、佐伯同様にタオルで隠すような素振りはせずにキャスは私達と距離を置いて堂々と足を広げて湯船に浸かる。
お嬢様学校と忘れてしまうような光景に、私は一応ここの住人として挨拶をしようとキャスに近寄る。
「初めまして、私はクシャ・アルリーナです」
私は挨拶の握手を交わそうと手を差し出したが、キャスは睨み付けるような眼光でこちらを窺う。
不機嫌そうな彼女に対して、私は精一杯の笑みで答えて見せる。
「意外とでかいな」
「えっ?」
「それだよ」
キャスが人差し指を向けた先には私の胸がある。
私は慌てて手で胸を隠すと、これってデジャヴではないかと錯覚してしまう。
「君は態度とおっぱいがでかいけどねぇ」
呑気な声で佐伯が茶化すと、その言葉にイラッとしたキャスは物凄い形相で佐伯を睨む。
とてもお嬢様学校の生徒同士の会話とは思えない。
足を伸ばして気持ち良く湯船に浸かっていたキャスは興が削がれてしまい、二人を睨んで「ふん!」と鼻を鳴らして大浴場を後にした。




