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第54話 本音

 しばらくして夕食を終えると、佐伯は満足そうにして家庭科室を後にする。


「ご馳走様でした」


 私と佐伯の他にこの学生寮の住人である成瀬は食器を一つに纏めて、ラーナに軽く会釈する。

 どうやら、彼女も外部生の一人で図工室だったところを部屋代わりにしているらしい。

 成瀬がいなくなったのを確認し、二人っきりになったところでラーナは私と向かい合ってテーブルの席に着く。


「私の手料理は美味しかったかい?」


「ええ……美味しかったですよ」


 夕食の感想等はどうでもいい。

 ラーナの網を破った魔力について、私は色々と腑に落ちない点があるからだ。


「そんなに怖い顔をしなくても、君の言いたいことは理解しているつもりだよ」


「巨大な魔力が感知された以上、実態が把握できるまで学校を閉鎖するべきです。このまま放置すれば、何も知らない生徒や教師が命を落とすことになるかもしれませんからね」


 魔力を扱える者がどれほど危険な存在か私はよく知っている。

 私のいた異世界で君臨していた魔王のような存在を野放しにすれば、大勢の人間が不幸になる。

それだけは避けたいのだ。


「君の主張は正論だが、学校運営に携わる理事長の立場では簡単に閉鎖はできない。季節性の感染症や地震・洪水による災害ならいざ知らず、巨大な魔力を感知したから閉鎖しますなんて理由では示しがつかんよ」


「しかし、このままでは……」


 私が無理なお願いをしているのは百も承知だ。

 ラーナの立場も考えれば、簡単に学校を閉鎖するなんて決断はできないのも理解できる。

 しかし吸血鬼である彼女も魔力の間違った使い方をすれば、どんな結末を迎えるか分かっている筈だ。


「少なくとも、私の網を破った魔力の持ち主は我々に危害を加えるつもりはないよ」


「澄んだ色合いの魔力の持ち主だから危険がないと判断するのは早計かと思います」


 どうもこの件に関して、ラーナは消極的だ。

 自身より強大な魔力の持ち主であることから、臆病風に吹かれてしまったのか。

 校章に付与された魔力について、何か手掛かりになる可能性は十分にある。


「君がそんなに必死になるのは正義感からではなく、大切な琉緒君を守りたいから」


「突然、何を言い出すんですか」


「君の立場になって考えてみたんだ。クシャ・アルリーナではなく前世の三崎信也として受け入れてくれる彼女は特別な存在だ。そんな一途な彼女を守るためなら、必死になるのも頷けてしまう」


「たしかに琉緒ちゃんは俺にとって大切な人です。ラーナさんは俺が琉緒ちゃんだけ無事なら他人がどうなろうと関係ないと?」


「おや、違うのかい?」


「俺はそんな浅ましい人間じゃありませんよ!」


 ラーナの指摘通り、私にとって琉緒は率先して守ってあげたい存在だ。

 だからと言って、他人を見捨てるような薄情者ではない。

 世話になっている奈緒や学校の生徒達も身の危険が迫っていたら、私の出来得る限り尽くすつもりだ。


「ふふっ、一人称が『俺』になっているね。素の本音が聞けてよかったよ」


「俺を……私を試していたんですか」


「気を悪くしないでくれ。私は臆病風にも吹かれていないし、生徒達を見捨てるような真似はしないよ」


 私の心を見透かした回答をするラーナは席を立つと、私に背を向けて調理場から淹れ立てのコーヒーを手にして私の前に差し出した。

一部台詞を修正しました。

今後も誤字脱字を含めて修正等の変更はあると思いますが、何卒ご理解下さい<(_ _)>

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