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第53話 マザー・ラーナ

 こちらに送られた荷物を整理して、どうにか一段落がついた。

 仕切り板の反対側からはテレビのバラエティー番組を視聴している佐伯の笑い声が聞こえてくる。

 仕切り板を外して隣の様子を窺うと、佐伯は簡易ベッドでお菓子を摘まんでくつろいでいる。

 相変わらず、部屋は生活感に溢れて汚いままだが、佐伯は私を手招きしてこちらに誘い込もうとする。


「部屋の整理は終わったのかい? なら、こっちにおいでよ」


 最近の女子高生は皆こんな感じなのだろうか。

 外部生とはいえ、仮にもお嬢様学校出身としての気概というか心構えが薄い。

 私のためにスペースを空けて座布団を敷いた佐伯はテレビの電源を消すと、私は座布団の上に座った。


「お菓子は一杯あるから、今夜はささやかな女子会をしよう」


「女子会?」


「そうそう。お互いの好きな人をカミングアウトしたり、悩みを聞いたりさ」


 佐伯から女子会を提案されると、親睦を深めるという意味では悪くない。

 内部生が圧倒的に多い中、外部生である佐伯は苦労もそれなりにあるだろう。

 無下に断る理由もないし、私は同じクラスで部屋が隣人である彼女の誘いを承諾する。


「うん、いいよ」


「やった! それじゃあ、夕飯とお風呂でさっぱりした後に女子会だ」


 もうそんな時間かと私は時計を見ると、既に十九時を回っていた。

 夕食の会場は学生寮を利用する生徒のために家庭科室を一部改築して開放されている。

 私は佐伯に連れられて家庭科室の部屋を潜ると、既に一名の生徒が席に着いている。


「おや、やっと来たのかい」


 調理場から大鍋を両手で抱えながら、聞き覚えのある声が私と佐伯を迎え入れる。


「おぉ! マザー・ラーナ、この匂いはカレーですか?」


「正解だ。さあ、席に着きたまえ」


 修道服の上から割烹着を着込んだラーナがテーブルに大鍋を置くと、蓋を開けて美味しそうなカレーの匂いが立ち込める。


「マザー・ラーナ?」


「この学生寮の母親的存在であり、私達の良き理解者。それがマザー・ラーナだよ」


 佐伯によると、ラーナは理事長の他に寮母も兼任しているらしい。

 旧校舎を学生寮として開放したのも彼女の一存で決定し、学生寮の生徒達からはマザー・ラーナの名で慕われている。

 理事長の役職も大変であろうに、寮母も務めているとは恐れ入る。

 私と佐伯は席に着くと、ラーナが作ったカレーを堪能しながら緩やかな時間を過ごした。

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