第51話 色
校章についてはラーナもとくに進展はないようで、魔力が付与された校章に対してラーナは学園全体を特殊な技法で魔力を感知できる網を張っていたようだ。
網に引っかかった魔力は瞬時に発生源を特定して、ラーナはすぐに動ける態勢を整えていたのだが、問題が発生した。
「先程、とてつもない魔力を感知した」
「それは本当ですか!? まさか魔王が……」
「いや、多分違うと思うよ。校章に付与された魔力と網で感知した魔力は色合いが違ったからね」
ラーナは魔力を分かり易く色で例えると、校章に付与された魔力を黒だとしたら、網で感知した魔力は透き通った青に近かったらしい。
魔力は一種の身分証明証みたいなもので、黒色の魔力が付与された校章は透き通った青色の魔力は出せない。
「情けない話だが、感知した網は魔力が巨大過ぎて解けてしまった。残念ながら発生源の特定はできなかったよ」
吸血鬼の技法で張った網を簡単に破るなんて、通常は考えられない。
少なくとも、私程度の魔力ではラーナの網を破るなんて芸当は無理だろう。
「それで、呑気にオルガンを弾いていたのですか?」
「ははっ、手厳しいね。まあ、事実だから返す言葉もないよ」
ラーナは私の皮肉を受け入れて中央の台座に膝を付くと、静かに祈りを捧げる。
この期に及んで、神頼みでもするつもりなのか。
いや、ラーナは最善を尽くしてくれている。
魔王の生死を確認できず、厄介事を持ち込んだ元凶は私にある。
彼女を責めるのはお門違いだ。
「ごめんなさい。少し言い過ぎました」
「……仮に発生源を特定できていたとしても、私一人ではどうすることもできなかっただろう。それだけの実力差があったからね」
ラーナは天を見上げながら、感知した魔力に屈服してしまったことを懺悔する。
対峙すれば、部活動に励んでいる生徒達を巻き添えにしてしまう危険性もあった訳だ。
少なくとも、現時点で魔力を扱える者は学園に潜んでいる。
目的は不明だが、校章に付与された魔力の持ち主と同一人物ではないにしろ、吸血鬼のラーナでは手に負えない。
私も天を見上げて、この異常事態について解決できるように祈るしかなかった。
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「すまないね。どうも加減を間違えてしまったらしい」
「……ここは吸血鬼の根城です。目立った行動は慎んでください」
校舎裏で二人の人物が向かい合っている。
二人の間に流れる空気は重く、他者を寄せ付けないオーラを放っている。
「ダークエルフの子がここへ転移された時点で、監視役を置いて様子を窺うだけでもよかったのでは?」
「我々がここにいるのは万が一の保険だよ。それに女子高生を演じるのも面白そうじゃないか」
「だからといって、私も女子高生役に抜擢するのは如何なものかと」
「普通に監視するだけじゃあ、面白くないよ。それに、なかなか様になっているじゃないか」
「与えられた任務を全力で完遂させるためです。そのためなら、女子高生でも何でも演じますよ」
「ほぉ、素晴らしい心構えだ。この件が終了したら、しばらく私を演じて見ないか?」
「またそのようなお戯れを……」
「冗談だよ。まあ、とりあえずこのまま続行だ」
「御意」
話が上手く纏まり、二人はそれぞれ魔力を抑えながら校舎裏を後にした。




