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第49話 放課後

 放課後、私は部活動の見学という名目で校内を歩き回る。

 部活動は強制ではなく、全校生徒の九割は何らかの部活に所属しているらしい。

 中には部員数や活動内容によって正式に部として認められていない同好会の立ち位置で活動しているものもあるらしく、一日で全ての部を見て回るのは無理だろう。

 琉緒は私が交通事故に遭う前までは家庭科部に所属していたようだが、私が亡くなって以降は塞ぎ込んで部活は辞めてしまったようだ。

 一時期は学校にも不登校気味であった琉緒だが、奈緒や両親の説得もあって学校へは通い続けた。


(何か手掛かりを見つけられればいいが……)


 本当は部活動に興味がある訳ではなく、放課後の過ごし方はアルバイトを見つけて生計を立てるつもりであった。

 では何故、部活動を見て回るのか言うと目的は私と共に転移した校章について情報収集すること。

 校章は聖カトメイル学園の徒なら必ず胸元に付けている。

 校則等で必ず身に付けていないといけない訳ではないが、聖カトメイル学園のお嬢様であるステータスの役割も担っているので、校章を付けていない生徒は意外と目立つらしい。

 私の制服にも校章は付けられており、聖カトメイル学園のお嬢様である証として自己主張している。

 私が暮らしていた異世界で暗躍していた魔王が、この聖カトメイル学園の校章を所持していた経緯は気になるし、このまま放置していたら琉緒や聖カトメイル学園の生徒達に危害が及ぶかもしれない。

 下手をしたら、この世界が危険に晒される可能性も十分にある。

 私は整備された広い競技場に差し掛かると、陸上部の生徒達が走り込みをしている場面に出くわした。

 その中には、クラスメイトである佐伯の姿もあった。

 彼女はスポーツ特待生として、聖カトメイル学園の外部生として入学したらしい。

 女子トイレで弁当を食べていたのは、教室の居心地が悪かったからかと思ったが、宿題を忘れて担任に職員室へ呼び出されて、昼食を食べる時間がなかったのが原因だったようだ。

 私の存在に気付いたのか、佐伯は走り込み中にも関わらず、私に対して軽く手を振って見せた。

 私も軽く手を振って応えたが、顧問の先生らしき人物はそれを見逃さず、佐伯に注意する。


「まあまあ、ちょっとしたパフォーマンスなんで勘弁して下さいよ」


 あまり反省の色が見られない佐伯に対して、皆がいる前で百m競走で良い記録を出して見ろと怒りは収まらない。


「まいったなぁ……まあ、やるしかないか」


 佐伯は罰が悪そうに頭を掻いて、百m競走の準備に応じる。

 女子トイレで見せた彼女の脚力を今度はじっくり観察できる。

 軽く準備運動を終えて、位置に付いた佐伯はスタートを切る。

 俊敏な脚力は健在で、たしかに陸上部に所属しているだけあって速い。

 記録係の生徒はゴールした佐伯の記録を確かめるためにストップウォッチに目をやると、目を見開いて驚いている。


「十秒七三です!」


 そんな馬鹿なと周囲がざわめき始めると、佐伯は「あっ、しまった」と呟く。

 もう一度、ストップウォッチを確認すると、そこには十二秒七三の数字が並んでいた。

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