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第42話 代償

 お土産のバッジをぶら下げながら、動物園を後にする。

 てっきり、動物園の噂を実行するのではと思ったりしたが、琉緒にその気はなかった。

 ウサギの触れ合いでの失態で告白するような段階ではないのか、心の準備ができていなかった私にとって残念でありながらほっとしている複雑な心境の私がいる。

 琉緒は私と手を繋ぎながら、デートの場所を動物園から商店街の一角にあるパン屋へ移した。


「ここは美味しいメロンパンがあるんだよ」


「へえ、そうなんだ。琉緒ちゃんはメロンパンが好きだったんだね」


「うん、甘い物は大好き。よくお姉ちゃんに甘い物ばかり食べてたら太るとか虫歯になるぞって意地悪なことばかり言うの」


 琉緒はトレイとトングを手に取って、嬉しそうに語る。

 奈緒が苦言を呈するぐらいなのだから、本当に甘い物が好きなのだろう。

 その証拠に、トレイには既に乗り切らない程のメロンパンが積まれようとしている。


「琉緒ちゃん、そのメロンパンは全部一人で?」


「まさか、半分は信也君に食べてもらうためだよ」


 琉緒はにこやかに答えて見せる。

 眼前からメロンパンの甘い香りが漂うと、一週間は昼のおやつに提供されても問題ないぐらいの量だ。


「琉緒ちゃんのご厚意は嬉しいけど、俺は一個だけで十分かな」


「一個!? もしかして、どこか体調が悪かったりする?」


 信じられないと言わんばかりに、琉緒は体の具合を心配そうに気遣ってくれる。

 医者に診てもらった方がいいかもと、話が大げさになりつつある。


「そう言う訳じゃなくて……ほら、お世話になっている奈緒さんやルミスさんにも食べてもらいたいかな」


 奈緒とルミスを出汁にして申し訳ない気持ちが芽生えると、さすがに一人では限界がある。


(奈緒さん、ルミスさん。ごめんなさい)


 そんな私の思いとは裏腹に琉緒は感銘を受けて称賛の言葉を贈る。


「私、信也君のそんな思いやりのあるところが大好きだよ」


「琉緒ちゃん……分かってくれて嬉しいよ」


 琉緒に思いが通じて、私は心の底から安堵する。

 だが、それはほんの一瞬であった。


「大丈夫、お姉ちゃんとルミスさんの分はこっちのトレイで用意するからね」


 琉緒は別のトレイに乗り切らない程のメロンパンを積み上げると、琉緒の好感度を上げる代償は高くついた。

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