第41話 バッジ
園内に設けられた休憩所のベンチで腰を下ろして、私は冷たい飲料水を口にしながら自身の不甲斐なさに参ってしまう。
本当なら、二人揃ってウサギを抱いた写真に収めたかったのだが、出来上がった写真は尻餅ついた私を介抱してくれる琉緒の姿だった。
「信也君、腰は大丈夫?」
「うん、だいぶ楽になったよ。あんなみっともない姿を晒してごめんね」
折角のデートで減点要素になるような行いをしてしまったことに後悔している。
(まだまだこれからだ!)
弱気だった心を奮い起こしてデート続行の意思を示すと、幻滅した琉緒の気持ちを払拭するためにも率先してエスコートするぐらいの気概を見せないといけない。
「そんなの気にしなくていいんだよ。ウサギさんに驚いた信也君もキュートで可愛かったからね」
意地悪そうな笑みで語りかける琉緒は私の腰に手を当てて、なぞるように優しく撫でる。
「そ……そうかな?」
「私にとって一番可愛いのはウサギさんより信也君だよ」
琉緒は耳元で囁くと、私の心臓は跳ね上がりそうな高鳴りを覚える。
まるで口説き落とす謳い文句のようだ。
「俺も! ウサギより琉緒ちゃんの方が可愛いと思っているよ」
咄嗟に私も早口で意思表示をすると、琉緒の両肩を握って答えて見せる。
私の勢い余った行動に琉緒は予想できなかったようで、最初は面食らったような顔になるがすぐに綻んだ顔になる。
「ありがとう……凄く嬉しいよ」
琉緒は愛おしそうに私へ抱きつくと、想像以上の結果が返ってきた。
私の真摯な気持ちが琉緒に伝わってくれたのは嬉しいのだが、休憩所には子供連れの家族やカップル連れがいるのだ。
子供を連れてその場を離れる親御さんもいれば、「可愛い」、「尊い」と祝福する言葉もちらほら聞こえる。
「腰の痛みも引いたし、まだ見てない動物を見て回ろうか」
「うーん、信也君がそう言うのなら行こっか」
もう少しこうしていたいと目で訴えかける琉緒だったが、周囲の目が気になる私は気恥ずかしさからこの場を早く離れたかった。
その後は琉緒と園内の動物をゆっくり見て回り、お土産の売り場でデートの記念に動物を模したバッジを購入した。
私はライオン、琉緒はウサギのバッジだ。
「信也君のライオンはカッコいいね」
「百獣の王って異名もあるぐらいだし、俺もこうなれたらいいなって思うよ」
私がライオンを選んだのはライオンのように気高く強くなりたいと願望があった。
琉緒のウサギもいつまでも可愛くありたいからと選んだそうだ。
「でも、ライオンさんならウサギさんは食べられちゃうかもね。信也君なら、私を美味しく食べてもいいけどね」
琉緒は意味深な言葉で私を誘惑する。
そんなつもりでライオンを選んだ訳ではないのだが、琉緒に妙な期待を持たせてしまったことに私は言葉を詰まらせてしまう。
(別の動物のバッジに交換しようかな)
これではどっちがライオンでウサギだか分からないなと私は苦笑いするしかなかった。




