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第39話 デート開始

 三十分程、列に並んでチケットを購入した二人は賑やかな園内に入れた。


「信也君、写真を一枚撮ろうよ」


 琉緒はスマホを取り出すと、私と肩を寄せ合ってシャッターを切る。

 昔から写真写りは悪い方なので、家族はもとより恋人である琉緒に見られるのは気恥ずかしい。


「ほら、可愛く撮れてるよ」


 スマホの画面には仲睦まじい姿の女子二人が映し出されている。


「写真は久しぶりだから、どんな顔をしていいか……」


「意識しないで自然体でいいんだよ」


 琉緒の適切な助言は(もっと)もなのだが、もう一枚撮ろうとスマホを向けられると私はぎこちない笑顔を作るのが精一杯だ。


「こんな感じにね」


 琉緒は何の躊躇もなく、私にお手本を示そうとする。

 それは琉緒の頬が私の頬と重なり、柔らかい感触が私の脳裏を支配する。

 長耳を触られていないのに、私の心は心地良さに溺れてどうにかなってしまいそうだ。


「良い顔になってきたね。でも、デートはまだ始まったばかりだから、お楽しみはお預けだよ」


 琉緒が私の耳元で囁くと、私と腕を組んで園内をゆっくり回り始める。

 あんなアプローチをされた後では琉緒を変に意識してしまい、動物達の鳴き声や周囲にいる客の会話が雑音となってしまう。


(何を期待しているんだ……)


 前世で男だった部分の欲望が私の中で確かに湧き上がる感覚がある。

 ダークエルフの女性に転生した当初は、いずれ時間の経過と共に完全に女に染まってしまうかもしれないと思ったが、そうはならなかった。

 同郷のダークエルフの女性を意識してしまうことは日常茶飯事だったし、今もこうして琉緒とのデート中も精神は当時の男子高校生のままである。


「ほら、あそこがそうだよ」


 琉緒が元気よく指差すと、そこには私にとってちょっとしたトラウマのウサギと触れ合える広場だった。

 こちらの時間軸では半年しか経過していないので、当時と変わった様子は見受けられない。

 当時と違う点があるとすれば、客の長い行列ができているぐらいだろうか。


「混み合っているし、ウサギは遠目から見るだけにして……」


「だーめ。信也君との一番の思い出をスルーするような真似は絶対にね」


 頑なな遺志が琉緒に宿っている。

 これには私も抗うことはできず、琉緒と一緒に行列へ並ぶことしかできなかった。

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