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第38話 噂

 しばらく電車に揺られながら、二人は他愛ない話で盛り上がっていると動物園がある最寄りの駅に到着した。

 電車には家族連れの子供や琉緒と同い年ぐらいの学生達が私服で乗り合わせているのを見かけて、この世界へ戻って来て日が浅い私は今日が世間的に休日であるのを失念していた。

 学生である琉緒とこうしてデートに興じているのだから当たり前である。

 異世界で二十年もダークエルフ達ののどかな暮らしに慣れてしまった私にとって、平日や休日の概念は薄れていた。

 正式な手続きが完了次第、私も琉緒の通う学校生活に身を投じるのだから生活のリズムは慣れていく必要がありそうだ。


「結構、賑わっているね」


 琉緒が指差すところには園内のチケットを求める客で長蛇の列が出来上がっていた。

 たしか、前に二人で訪れた時はチケットも並ばずに買えた記憶がある。

 目新しい動物やイベントでもあるのかなと思ったが、周囲の行き交う人達の会話が耳に入り、その理由が判明する。


「ドラマの撮影による効果か」


 どうやら、この動物園は最近放送された恋愛ドラマの舞台となった場所らしい。

 以前は人気もあまりなく気兼ねなく園内を自由に散策できたのだが、この様子ではそれも叶わないだろう。


「これは参ったね。でも、テレビで取り上げられてこの盛況っぷりは凄いね」


「ふふ、ちょっとした噂があってね。この動物園で愛を誓ったカップルは未来永劫結ばれるの」


 琉緒から詳しく聞くと動物園で愛の告白をする場面があったようで、それを真似たカップルがドラマと同じ条件で告白したら結婚まで辿り着けたとSNS等の噂で一気に広まったらしい。

 その噂にあやかろうと、複数のカップル達が動物園に押し寄せているのが現状だ。

 私からして見れば、偶然が重なり合った結果のようにしか見えないが、恋愛を重視する女子にはロマン溢れる展開に映っているのだろう。


「私がここを選んだのは信也君との思い出の場所でもあり、信也君と結ばれるには相応しい場所だから……」


 琉緒は私に寄り添って、デートの場所に選んだ理由を明かす。

 琉緒もここにいるカップル達と同様に本気の熱が直に伝わって来る。


(琉緒ちゃん……)


 初めてのデート場所であり、素敵な噂も整っている。

 まるで私達の恋路を応援しているかのように――。


「男女のカップルは結ばれるかもだけど、女同士も効力はあるものなのかな?」


「ふふ、試してみようよ」


 琉緒は意味深な笑みを浮かべると、私は頬を赤く染めてしまう。

 心臓が飛び跳ねそうな緊張感に包まれながら、私は琉緒と共に園内のチケットを購入する列へ並んだ。

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