第34話 二人っきり
「学生はもう部屋に戻って寝る準備をしろ」
奈緒に促されて、私は上階の共同部屋に移動すると二人分の布団を敷いていた。
相変わらず部屋は汚いが、今日は気を利かせてルミスは事務所のソファーで就寝するそうだ。
「別々の布団で寝るのは嫌だなぁ。信也君と一つの布団で寝たいよ」
琉緒は私の背中に抱き付いて駄々をこねる。
「俺と一緒に寝るのは……」
ダークエルフの女性である私だが、元々は男子高校生。
シャワーに一緒に入ったのも本来ならあり得ない事態なのに、一つ屋根の下で一緒の布団で過ごすのは男として嬉しい半面、抵抗感も混在してもどかしさを覚えてしまう。
「ふふっ、エッチなことでもする?」
「なっ!」
琉緒は先に布団へ潜り込んで、私に対して誘惑するような言葉を投げ掛ける。
突然の誘い文句に私は言葉を失って、たじろいでしまう。
前世で琉緒と動物園へデートに誘うだけでも一苦労したのに、異世界で色恋沙汰の経験を積んでこなかった弊害がここにきて浮き彫りになる。
ここ一番で大切な人のためにとっておくべきだよと気の利いた台詞が出ればいいのだが、頭が真っ白になってしまい何も台詞が浮かばない。
「やっぱり、異世界では本当に誰とも恋愛経験をしてない感じだね」
琉緒は布団から嬉しそうに顔を覗かせると、私の顔をじっと見つめる。
「もしかして、俺を試したのかい?」
「私の誘いに迷いなく受け止めて、エッチが上手かったら信也君は私に嘘を付いていたと確信できたよ。まあ、シャワーの時から信也君が嘘を付いている可能性はゼロに近いと思っていたけどね」
「琉緒ちゃん、寿命が縮むような冗談は勘弁してくれよ」
「ごめんごめん。でも、信也君はダークエルフなんだから多少寿命が縮んでも私より長生きするよ」
エルフ族が人間より長寿なのは琉緒も理解している。
こんな調子で肝を冷やすような冗談が毎日続いたら、長寿のエルフ族でも身が持たない。
「お詫びに私と今からエッチする?」
「あ……明日は早そうだからもう寝るね!」
私は琉緒の冗談を聞き流すように耳を塞ぎながら別の布団に潜り込んだ。




