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第30話 戦慄

 私が次に目覚めた時には薄暗い天井が目に映った。

 ゆっくり起き上がると、身体は火照っているような感覚が微かに残っている。

 長耳を他人に触られた影響だろう。


「やっと起きたんだね」


 聞き慣れた声がすぐ傍から聞こえる。

 声のする方へ振り向くと、琉緒が椅子に座ってこちらを窺っている。


「琉緒ちゃん、ここは……上階の共同部屋か」


 床は物で溢れ返っており、ここがルミスとの共同部屋なのは人目でわかった。

 奈緒の他に誰かいる様子はなく、どうやら二人っきりのようだ。


「奈緒さんとルミスさんは?」


「下の事務所にいるよ。ルミスさんがここまで信也君を運んでくれた後は気を利かせて二人っきりにしてくれたんだ」


「そっか……みっともない姿を晒しちゃったね」


 よりにもよって、一番見られたくない人に醜態を晒してしまった。

 どんな顔で彼女と接したらいいか分からず、目を合わせるのが辛い。

 幻滅してしまっても仕方がない。


「全然そんなことないよ。私の知らない信也君の一面を覗けて興奮気味になっちゃった」


 琉緒が椅子から立ち上がると、私に歩み寄って愛おしそうに抱擁する。


「その長耳をもう一回触りたいけど、やっぱり駄目かな?」


「琉緒ちゃんの頼みでも……そこだけは本当に駄目なんだ」


「可愛い顔をしてくれるんだけどなぁ」


 どうやら、私の長耳を気に入ってしまったようだ。

 琉緒は残念そうな顔で、長耳の代わりに私の頬に両手を添えて見つめ合う。

 幻滅どころか、もっとお互いについて知りたいと訴えかけているみたいだ。


「明日は学校がお休みだから、今夜はここで信也君と一緒に寝泊まりするつもりなんだ」


「えっ!? それは色々とまずいんじゃないの?」


「半年前の信也君となら、両親やお姉ちゃんが猛反対してたと思うけど、両親には女友達の子と寝泊まりするって言ってあるし、お姉ちゃんも事情は把握しているから大丈夫だよ」


 半年前の私なら、高校生の男女が同じ屋根の下で一夜を過ごすのは考えられなかった。

 窓ガラスに映る自身の姿はダークエルフの女性であり、種族を考えなければ世間的に問題はない。


「長耳は保留にしてあげるから、信也君が異世界で過ごした経験を色々と聞かせて欲しいなぁ」


「それぐらいならお安い御用さ」


 琉緒にはそれとなく異世界について語るつもりであった。

 こんな形で話をするとは思ってもいなかったので、心の準備はできていなかった。


「その前に、シャワーで汗を流してからにしよっか」


「ああ、汗臭かったかもしれないからごめんね。俺はここで待っているから、琉緒ちゃんは先に……」


 先程、長耳を触られて火照った身体は汗となって流れ出て、琉緒に不快な思いをさせたかもしれない。

 最初に公園で出会った時も、私はお風呂に数日間入っていなかった。

 琉緒と今後はこうして面と向かって過ごすのなら、最低限の身だしなみは気を付けないと――。


「折角だから、一緒に入ろうよ。信也君の背中を私が流してあげるからね」


 琉緒は私の手を握ると、そのまま事務所のシャワー室へ私を誘い込もうとする。


「一緒にシャワーが嫌なら、長耳を触り尽くしちゃおうかなぁ」


 私にとって、どちらの選択肢も全身に戦慄が走るものであった。

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