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第26話 扉の先に

 学校のOBだけあって、主な施設は奈緒の案内でとても参考になった。


「こんなところかな。続きは琉緒や同級生達と一緒に見て回るといいだろう」


 奈緒はもう編入する前提で話を進めており、さりげなく私の背中を押す。


「理事長もフェロモンを吸収するために生徒達と接しているし、それに比べたら君がここへ通うのは全然普通さ」


「学校に通っている間はそのフェロモンに囲まれてるんですよね」


「それも慣れるさ。学園長も君から発するフェロモンには満足していたし、琉緒に至っては虜になっている始末だ」


「姉としてそれは看過できない事態なのでは?」


「前にも言ったが、琉緒は転生前の君が亡くなってから魂が抜けたような状態で塞ぎ込んでいたんだ。情けない話だが姉である私も元気付けたりしても、君のことで頭が一杯で心ここにあらずだった」


 奈緒にとって私と琉緒の関係性より、琉緒が半年前の笑顔を取り戻せた方が重要であった。

 仮に琉緒が私と今より深い関係に陥っても、奈緒は二人の主張を尊重し口出しはしないつもりらしい。


「琉緒の悲しんだ顔はもう二度と見たくないからね……」


 奈緒は駐車場に繋がる廊下を潜りながら、それを追うように私も後に続く。

 彼女の背中は寂しそうに語ると、自身では琉緒の心を満たせない葛藤や琉緒にとって私が特別な存在であることに嫉妬を覚えているように窺えた。


「ああ、何だか辛気臭い雰囲気になってすまんね。保護者として君や琉緒には楽しい学校生活を送ってもらえればそれでいいんだ」


「いえ、奈緒さんには私のために色々と便宜を図っていただき感謝しています。編入も……前向きに考えます」


「そうか。そう言ってくれると私もここを紹介した甲斐があるってもんだ」


 乾いた笑みを見せる奈緒は車の運転席に乗り込む。

 この姉妹にとって、私の存在は思っている以上に大きなものなのかもしれない。

 私も助手席へ回り込んで乗車しようとしたが、お腹に軽く手を当てて乗車を躊躇ってしまう。


「すみません、少しお手洗いへ行ってもいいですか?」


「ああ、構わんよ。私はここで待っているから」


 車のエンジンをかけようとした奈緒は手を止めて私を見送る。

 私は足早で校内へ引き返すと、先程通った女子トイレへ駆け込む。

 二十年も女性のダークエルフとして異世界で暮らしていたら、女子トイレに駆け込むのも躊躇はしない。

 さすがに私の正体を知っている者の前なら躊躇してしまうかもしれないが、この場にそんな者はいない。

 適当に個室トイレの扉へ手を伸ばして開けると、私は思わず驚いた声を上げてしまう。


「わっ!」


 反射的に扉から半歩下がってしまうと、その原因は個室トイレの中にあった。


「……マジかよ」


 便座に腰掛けながら、そう呟いて唖然とした表情でこちらを窺っている聖カトメイル学園の制服に身を包んだ女子がいたのだ。

 時間的にまだ授業中の筈なので、不良生徒がトイレで授業をサボったりしている可能性もあるが、ここは有名なお嬢様学校なのでその可能性は限りなく低い。

 単純に具合が悪いからトイレを利用していたのかもしれないが、女子生徒をよく見ると両手には具沢山のお弁当箱があった。


「えっと……失礼しました!」


 私は扉を閉めて反対側の個室トイレへ逃げるように入った。

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