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第25話 理事長の正体②

 吸血鬼。

 私は異世界で一度だけ吸血鬼に出会った事があるが、闇夜になれば無尽蔵な力を発揮する種族だ。

 彼等の縄張りを荒らす行為は命を落とす愚か者だ。

 思い返せば、あの色白い肌に身を凍らせるような瞳は吸血鬼のそれであった。


「あの理事長が吸血鬼だったなんて……では、彼女も私と同じような境遇で?」


「本人曰く、元々住んでいた異世界が嫌になって移動して来たらしい。車の中でも言ったが、異世界の移動は地獄の片道切符。その覚悟で彼女はこの世界へ無事に降り立った」


 私のような偶発的なものではなく、ラーナは転移先が完全なランダムの魔法を行使したらしい。

 一歩間違えれば死ぬ可能性が付き纏う転移魔法と知りながら、それでも行使したとなると彼女が暮らしていた異世界は過酷な環境だったのかもしれない。


「吸血鬼は我が強く、選民思想の強い種族です。人間と共存するなんて考えは持ち合わせていないと思います」


 闇を統べる吸血鬼にとって人間を含めた他種族は家畜や餌としか認識していない。

 少なくとも、私がいた異世界ではそれが常識であった。

 そんな吸血鬼が学校の理事長を務めているのは何か裏があるのではないかと勘繰ってしまう。

 ここは最新設備の整った施設のお嬢様学校。

 上質な人間の血肉を求める吸血鬼なら、この聖カトメイル学園は絶好の餌場ではないだろうか。


(まさか……)


 理事長の立場を利用して女子生徒を呼び出し、吸血鬼の毒牙に――。

 私の中で危ない妄想が次々浮かび上がる。


「彼女は君が想像しているような吸血鬼じゃないよ。可愛い女子と触れ合うのが好きな少し変わった吸血鬼だ」


 私の頭の中を見透かしたように奈緒は頭を抱えながら訂正する。


「可愛い女子の生き血を啜るとかではなく?」


 私は困惑した表情で問い掛ける。

 奈緒が言うには触れ合う行為が生き血を啜るようなものらしく、廊下ですれ違う女子生徒達と会話を楽しむ程度でお腹一杯になるらしい。


「正確には血の代わりに女子生徒達から発するフェロモンを体内に吸収するようだ」


「な……なるほど。それなら生徒達に実害はありませんね」


 先程、理事長が私とスキンシップしたのは私から発するフェロモンを吸収していたようだ。

 自身から理事長が好むフェロモンを分泌しているのは複雑な気持ちに駆り立ててしまう。


「まあ、少し変わった吸血鬼だがラーナ理事長は人間に危害を加えるような人物ではないよ」


 奈緒は話を締め括ると、二人は屋上を後にして校内の見学を続けた。

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