第24話 理事長の正体
昇降口の階段を下って、私は引き続き奈緒の案内で校内を見回った。
結論から言うと、生徒のために行き届いた環境が整っている。
表面だけ捉えれば、質の良い高等教育を受けられるのは間違いないだろう。
「一つ気になっていることがあるのですが、質問してもいいですか?」
「ああ、構わないよ」
「先程会った理事長について、その……彼女は普通の人間ではないですよね?」
本来なら理事長室で本人に訊ねたかったが、彼女のペースに嵌まってその機会がなかった。
奈緒と理事長との関係も二人の会話から推察すると、それなりに長い付き合いなのは分かっている。
奈緒は私やルミスの正体を受け入れており、おそらく理事長の正体も理解していると私は睨んでいる。
「やはり薄々感付いていたか。君の予想通り、彼女は人間ではないよ」
私の問いに首を傾げるどころか、奈緒は観念して肯定する。
「少し場所を変えて話そうか」
人の目を気にしながら、奈緒は私を連れて立ち入り禁止の屋上へ場所を移す。
透き通った青空の下で、誰もいない屋上から見渡す景色は壮観であった。
奈緒は壁際に背を向けて、懐から煙草を取り出そうとしたが、思い止まって一服するのを止めた。
「卒業したとはいえ、やはり母校で煙草は吸えんな」
「煙草もそうですが、ここって勝手に入って大丈夫なんですか?」
「理事長から校内の見学許可は下りているんだ。その辺の心配は無用さ」
たしかに見学許可は出してくれたが、立ち入り禁止の場所までは指定していないような気がする。
「君をこの学校に薦めた理由には今のように学校の規則を守れる人物だと思ったからだ。異世界から迷い込んだ連中の中には混沌を望む者もいるだろう」
異世界に迷い込んで来る者の中には私やルミスのような者ばかりではなく、危険な思想を持ち合わせた人物もありえるのだ。
本来なら私ではなく、この世界へ飛ばされたのは邪悪な魔王だったかもしれない。
不可抗力であるにしても、私が飛ばされて来たのはこの世界にとって幸運だったのかもしれない。
「魔王とやらがここへ飛ばされていたら、甚大な被害が発生していたかもしれない。それこそ、転移された公園の傍には琉緒もいたから命の危険があった可能性があるんだ」
魔王の力は私が一番よく理解している。
あんな奴に琉緒の命を奪われるなら、この世界へ飛ばされたのが私で本当によかったと思えてしまう。
「一歩間違えてたら、魔王に琉緒ちゃんやこの世界を滅茶苦茶にされる未来もあったと思うとゾッとします」
「そういう意味では君が転移されて本当に幸運だった。例の公園は現在、封鎖中だ。現場には今頃、理事長を含めた調査チームが既に動いている。そして君の問いに答えよう。ラーナ・フリメール理事長は吸血鬼だ」




