第17話 大人の階段
「ふう……とりあえず、こんなものかな」
所定のゴミ捨て場にゴミを捨てに行った私は首にかけているタオルで額の汗を拭きながら一息入れる。
ふと、空を見上げて見ると雲一つない晴れ渡った青空に感慨深いものを感じる。
「ご苦労様。これから昼食を食べに行こうと思うのだが、君は何が食べたい?」
背後から声を掛けられると、トレンチコート姿の奈緒が昼食に誘って来たのだ。
「私は何でもいいですよ。奈緒さんにお任せします」
「そうか。じゃあ、近くのファミレスに行こうか」
これといって食べたい物はなかったので、私としては胃袋が満たされる物なら何でもよかった。
奈緒がファミレスをチョイスすると、徒歩で二分程度のところにあるファミレスへ入店する。
異世界転生する前の学生の頃には学校帰りに友人達とよく立ち寄ったりしていたものだ。
懐かしい雰囲気に遠い昔の記憶が断片的に蘇る。
「どうかしたのか?」
「あっ、いえ何でもありません」
「それならいいが、気分が悪かったら引き返して休んでもいいよ」
私の体調を気遣う奈緒に、私は慌ててメニュー表に目を移す。
程なくして料理を注文すると、奈緒は興味本位で雑談を持ち掛ける。
「エルフは基本的に森の中でひっそり暮らす種族だと思っていたのだが、ルミスから言わせるとそれは古い固定概念だと突き返されてね。出稼ぎに人間の住む町にも繰り出すし、冒険を生業とするエルフは各地を転々と渡り歩くらしい」
「そうですねぇ、ダークエルフも大体そんな感じですよ」
私も異世界転生して間もない頃は生涯、森の中でひっそり暮らすイメージを持ち合わせていた。
必要に応じて人間の住む町で生活雑貨を購入したり、森で採取した薬草や独自で編み出した呪術的な装飾品を売却して生計を立てたりするのは珍しくなかった。
「一番気になっていたのはエルフとダークエルフは犬猿の仲なのかだ。君とルミスを見たら結果は出ているが、正直君がシャワーを浴びているところにルミスが戻って鉢合わせた時は生きた心地がしなかったよ」
奈緒が危惧していた気持ちは私も理解できる。
私のいた異世界ではエルフとダークエルフが対立していた時期もあったらしいが、私が異世界転生した頃には普通に交流が盛んであった。
最悪の場合、流血沙汰の事件に発展しているのではと過ぎったらしいが、結果は貞操の危機に晒されているだけで済んでいたので奈緒はとりあえず一安心した。
「ルミスさんみたいな性格のエルフは初めてですよ。危うく大人の階段を登ってしまうところでした」
「ははっ、大人の階段とはまた面白い例えをするね」
「もう、笑い事じゃありませんよ」
そんなやり取りをしている間に注文した料理がテーブルに並べられると、楽しい昼食の時間を過ごした。




