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1話

「お前がいるとうちのクラスの平均成績が下がるからさ、マジで学校辞めてくれない?」


 リューネ・セノンは、騎士養成学校のあるクラスで、男子生徒や女子生徒数人に囲まれていた。


「ホントに、なんでお前みたいなのがここにいられるのか分からないんだけど」


 リューネを囲う生徒の誰かが言う。


 それに対してリューネは、反論をできる術を一つも持っていなかった。


「………僕も、そう思う。けど、辞められないんだ」


「うるせーよ!お前の事情なんか聞いてないって!」


 誰かがリューネを殴り飛ばす。


 しかし、リューネは殴られて飛ばされても、謝罪を要求する事もなく、反論をするわけでもなく、ただひたすらにされるがままであった。


 理由は1つ。


 リューネは、魔物討伐数が全てものを言う学校において、依然として()()()()()の万年学年最下位なのである。


 だから、リューネがいる事によってクラスの成績が下がると言われても、そりゃそうだと誰もが同意する。



「お前はそうやって、逃げてばっかだよな!」


 また、誰かが言った。


「魔物にあっても、逃げてどっかに隠れるんだろ!?」


「お前の《才能》を見たことあるやつも居ねーし、お前《才能》持ってないんじゃないのか?」


 そう、魔物の討伐数は、チームで討伐した時には皆に『1』ずつ加算されるのに、リューネは魔物が来たらすぐに逃げるのでずっとゼロのままなのであった。



「………ごめん」


 リューネは、一言そう言って、クラスを出た。


「ったく、マジうぜえ!」


 教室を出る直前、誰かがまた悪態をついた。




 ____________________________________





 リューネが教室を出て、家に帰ろうとした時、学校中にけたたましく通報ベルの音が鳴った。


「街の外の森に、蜘蛛型が出たってー!」


 誰かが叫ぶと、皆が一斉に動き出し、我先にと学校を飛び出していった。


 この光景はこの学園特有のものと言えるものだ。


 討伐数を稼ぐ方法は、基本はダンジョンに潜ってそこの主を倒す方法が普通であるが、このように草原や森などに特異的に現れた魔物を、騎士団と一緒に討伐すれば、討伐数に加算されるのだ。


 つまり、騎士団の魔物討伐のおこぼれを預かろうとしているのである。



 皆んな出動しようとするので、差をつけられないためにも、成績のギリギリな者は皆一様に飛び出していった。


 そして、討伐数万年ゼロのリューネも同様に飛び出すーーーー




 ーーーー訳もなく、魔物の前ではないと言うのに、皆とは逆方向に走り出していた。


 正に万年ビリと言われるに足る情けない姿である()()()()()()が、果たして、この物語の主人公に限っては、そう言うわけでもない。



 リューネが向かった先は、使われていない倉庫。


 ()()()()()()()()()()手に入れた鍵を使って中に入り、内側から鍵を閉める。



 そしてリューネは、真っ直ぐ前に手を伸ばして目を瞑った。


 すると、手先から淡い光を放つ魔法陣が現れ、リューネの体を通り抜けると、リューネの姿はたちまち()()()()()()()()()()()()()姿()()()()()


 しかし、リューネは全くの別人になってしまったというわけではない。


 その空間に突如として現れた、女子制服を見に纏った『神速』と呼ばれる少女は、正しくリューネ本人なのであった。



「なんで制服まで女子のになるんだろう………」


 リューネは少しだけ愚痴を漏らすと、たちまち全身に《付与エンチャント》魔法をかけて、人の目に止まらない速さで窓から飛び出した。



 向かう先は、街の外の森。



 誰よりも早く、魔物の討伐に向かった。




 ____________________________________




 まだ人の集まっていない森に着くと、今正に、蜘蛛型の魔物が少女の命を奪おうとしている時だった。



「やばっ!」


 リューネは魔力によって剣を生み出すと、ギアを上げて魔物に近づいた。



 魔物が少女の命を狩るよりも早く。


 天高く舞い、空を蹴る。



 一本の槍のようになったリューネは、たちまち蜘蛛型の魔物に突き刺さった。


 命が潰える断末魔と共に、魔物の体液がリューネに降りそそいだ。


 しかし、その魔物の残滓ですら、リューネを汚すことはできないようだった。



「大丈夫ですか?」


 リューネが声をかけるが、少女は呆然としていた。


「多分騎士団がもうすぐ着くと思うので、そこで待ってて下さいね」


 リューネはそう言って、その場をすぐに離れた。





 学校までの帰り道は、魔力を温存する目的もあって、急がずに帰ることにした。


 しかしそんなことをしたせいか、後から遅れてやってきた大量の学生服の集団と出くわした。



「お、おい!『神速』だ!」


「きゃぁ!う、美しい!」


「『神速』様!こっち見てぇ!!」


 学生たちはリューネに気づくと、魔物の通報があった時より騒ぎ出した。


(面倒な人達に見つかった!)


 リューネはのんびり帰ろうと思ったさっきの自分を悔いた。


 たちまちリューネは学生の集団に囲まれそうになったので、リューネはまた全身に《付与》魔法をかけて、『神速』で逃げるのだった。






 今みたいなことが度々起こって、生徒達から逃げてる間に、リューネはいつのまにか『神速』と呼ばれるようになった。


『神速』も、『万年討伐数ゼロ』も、どちらもリューネが持つ側面である。



 どちらの側面もリューネを構成していて、どちらの姿をしているのにも理由があった。



 リューネの《才能》は、《万能魔法》と言うもので、全ての魔法が生まれた時から意のままに操れるという、正に神の使いとでも言うことが相応しいものであった。


 それが発覚した時、リューネはいずれ世界を担う英雄になれると期待されたがーーーー



 ーーーーこの《才能》には、欠点があった。



 ①《万能魔法》を使うには、少女の姿に変身しなくてはならない


 ②魔力を使い果たせば、変身も解ける


 この2つに関して言えば、《万能魔法》という長所を考えればさしたることはない短所だった。


 しかし、問題は最後のもう一つ。


 ③誰かに見られている時は、少女の姿に変身出来ない



 この制約があるせいで、リューネが目立つことは許されなかった。

 たとえば、リューネが『神速』であると明かしてしまえば、勿論今みたいに誰から構わず人を寄せ付けてしまうわけだ。

 そうなってしまえば変身することができなくなってしまうし、それを知られたなら《万能魔法》が使えなくなるのと同義である。


 それを避けるために、ずっと討伐数ゼロで、敵前逃亡していたと言う訳だった。




 ともかく、リューネは魔物を倒したことの報告に行くため、家族以外で唯一事情を知る、学院長室へと入っていった。





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