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05. “面倒な存在”

 咲子と進学先の高校が同じだった、それだけでもかなりの衝撃なのに、それには飽き足らず、同じ部活の体験で再会するという出来事は智にとってかなり衝撃的だった。最初は再会したことに驚き、自分と同じように絶句していた咲子が、自分との過去の出来事や関係性を先輩に悟られないように平静を装いつつ高橋たちと会話している様を見ながら、智の頭の中では過去の出来事がずっとチラついていた。

「...益田くん」

「は、はい...!!」

考えていたところ不意を突かれて、智は驚いた様子で返事をした。すると高橋が咲子の方を指して言った。

「中学の同級生ならサッキーちゃんと方向一緒でしょ?暗くなるとよくないから、送ってってあげてくれよ。傘を持っているところを見るに、二人とも今日は歩きだろ?」

「えっ!?」

確かに智は雨の影響で今日は傘を持ってきていたし、咲子もそんな感じの様子だった。 (家との距離的には自転車通学がデフォルトになりそうだが)でも、唐突な提案に思わず聞き返してしまった。

隣で咲子も少し驚いた顔をしていた、が、すぐに表情を戻すと、口を開いた。

「お気遣いありがとうございます!確かに私たち方向が一緒ですし、通学路にもまだあまり慣れていないので益田くんと一緒に帰ろうと思います!」

咲子はそう言って自分の荷物を持ち上げると智の方を見て、ジェスチャーで合図し、校門に向かって歩き始めた。

「え、あ、ちょ...待ってくれよ!」

智はスタスタと歩き始めた咲子を見て慌てて靴を履き替えると、振り返って慌てて高橋たちに挨拶をした。

「...それでは俺、帰りますね!今日はありがとうございました...!」

「おう!こちらこそ来てくれてありがとな!」

高橋は慌てるあまりつま先を何度か地面に当てて馴染ませながら走り始めた智の背中を見て、そう返事をした。

 二人の後ろ姿を見ながら、出水は高橋に言った。

「...二人とも、また見学に来てくれるといいな」

「ああ。」

高橋は返事をした後、少し何かを考えてから真面目な表情で答えた。

「...()()()、来てくれるといいんだけどな。」



 咲子が校門を出たところで、ようやく智が彼女に追いついた。

「サキコ〜!」

「...」

自分の名前を呼ばれても、咲子は振り返らずに前を向いて歩いていた。そんな咲子の態度を見て、智は続けた。

「...。いや、...“()()()()”。俺と一緒に帰ってくれるのか?」

「見てれば分かったでしょ。初対面の先輩たちに私たちの過去を知られると気を遣わせちゃうから演技してたのよ。気を利かせて提案してくれたのにあそこで一緒に帰りたくないって言ったら角が立つでしょ。先輩たちから見たら、私たちは過去に特に何かあったわけではない普通の同級生。()()()()は私と何か関係があるって他の人に知られたくないんでしょ?」

「...違う、中学の時何度も言っただろ、()()()()は場の空気に巻き込まれて、つい心にもないことを言っちゃっただけだ。ちゃんと謝らせてくれ...!それで、また昔みたいに仲良くしてくれよ...!」

「...もう無理だよ、疎遠になってから2年も経ってるし、状況も変わってる...」

中学時代のあの事件を思い返し、今からでも謝罪をしたいと詰め寄る智に対し、咲子はなかなか首を縦に振らなかった。“一体何がこれほどまでに咲子に拒絶させるのか”、“どうしたらもとの関係性に戻れるのか”、咲子を後ろから追うように歩きながら、智は必死に頭を働かせた。これまでも謝罪しようと何度も咲子と会話する機会を窺ったり、頼んだりしてきたが、いずれも拒絶されてきた、以来、ずっとタイミングが掴めずにいた、高校に入ってもう完全に無理かと思っていた矢先に部活見学での再会、久しぶりのこれほどのチャンス、そうそう見逃すわけにはいかない。



 二人はその後も言い争いを続けながら道を歩き続けた。しばらく経っても話は進まず、ぐるぐる回るばかりで、二人はだんだんイライラしてきていた。

「...とにかく一回落ち着いて話を聞いてくれ!許してくれるかどうかはその後でいいから!」

「もう無理だって言ってるでしょ...!許すとかいう問題じゃないの!もうほっといてよ!」

しつこく言いながら追いかけてくる智に、咲子はそう叫んでから歩道橋を駆け上がり始めた。智もそれを見てすぐに後に続いた。しかし、雨上がりの歩道橋、しかも少し古いものだったということもあり、所々の凹みに水たまりができていた。そして、その水たまりに足を滑らせ、咲子は階段を踏み外してしまった。

「...わっ...!!!」

「...!サキコ...!危ない...!!」

智が倒れてくる咲子に、気づいた時には遅く、体勢を整える前にぶつかって一緒に転げ落ちた。あたりに鈍い音を響かせながら、二人は歩道橋の下に倒れてしまった。



 「...いたたた...、サキ...いや、水島さん...大丈夫か?」

智はぶつけた所を気にしつつも、自分の上に倒れている咲子に気づいて声をかけた。咲子も痛そうに頭をさすりながら起き上がった。

「...へ、平気、益田くんは...?」

「...お、俺はちょっと腕を痛めたけど、大丈夫...、い、痛っ...!」

咲子がどいた後、智は起きあがろうとして腕をついた所で、ぶつけた箇所の痛みに小さく悲鳴をあげた。

「...と、とにかく落ち着いて聞いてくれ...!()()()()言っちゃったことは本当に本心じゃないんだ。そのことについては本当に謝る...!俺が悪かったんだ...!怒りを収めてくれないか...?」

腕の痛みに耐えながらも、ようやく立ち止まった咲子に対し、智は必死で自分の思いを語った。そんな智の言葉を聞いて、咲子は声を震わせながら言った。

「...違うの...」

「...え?」

先程までの様子とは違う咲子の表情を瞬時に察知し、智は思わず聞き返した。咲子は泣き出しそうな顔で続けた。

「...許すとかいう問題じゃないってさっきから言ってるでしょ...!益田くんが謝る必要なんてない...謝らなきゃいけないのは、むしろ私の方なのよ...!」




 「どういうこと...?」

咲子の返事を聞いて、智は困惑して聞き返した。今までは、中学のあの日自分が言ってしまった一言が咲子を傷つけてしまい、怒らせてしまったことが咲子が智のことを避けるようになったキッカケだとばかり思っていた。しかし、咲子の本心はそうではなかった。咲子は智の顔を覗き込みながら、語り始めた。



 「あの日、益田くんにああ言われて、確かに最初はすごくビックリした。これまでもずっと仲良くしてくれていた益田くんが、実は自分のことを嫌っていたかもしれないなんて感じたら、すごいガッカリで、寂しいと思った。でも、益田くんが言った話を聞いて、私はあの時気づいたの。益田くんにとって、私は面倒な存在なんだって。」

「そんなことない...」

咲子の話を聞きながら、智は首を横に振った。

「でもね、確かに思い返してみると、私はずっと益田くんに頼りきりだった、益田くんが来てくれないと部屋も散らかっちゃうし、益田くんに教わらないとテストでいい成績を取ることもできない。このまま益田くんにずっと頼ってばかりだと、いつか益田くんの重荷になっちゃうって思ったの。」

「水島さん...」

咲子の話を聞きながら、智は真剣な表情で呟いた。



「...だからね」

咲子はそこまで話してから少し顔を上げて話を切り替えた。

「...()()()私は決意したの。“国語の先生になる”っていう夢に、益田くんが集中できるように、夢を邪魔しないために。私は益田くんに頼らずとも、ちゃんと色々できるようになるんだって。だらしない生活を改めて、きっちりするようにした。部屋も片付けて勉強も頑張るようになった。」

咲子の話を聞きながら、智の中で色々なことが繋がってきた。昔のボサボサと無造作に伸びた髪型や佇まいから一転し、今の咲子がショートヘアの割とすっきりとした印象になっていることは、かつてのだらしない性格を変えようと、彼女なりに努力した結果なのだろうし、なんといっても中学1年の頃は底辺の成績だった咲子が、成績が下がったとはいえかつて学年トップだった自分と同じ高校に進学していることはまさにその象徴といえるだろう。

 「...勉強を頑張った成果が出て、この高校に進学できるようになった頃には、少しずつ今の自分に自信がついてきて、高校でも軌道にのってきたら益田くんに謝ろうと思ってた...でも」

咲子はそう言ってから、智の腕を見て涙を流すと、言った。


「...私ったら...()()迷惑かけちゃった...」

次回で最終回となります。

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