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85話:プレイヤーの死

 過大評価は居心地が悪い。

 こういう時は話題を変えよう。

 否定するのも疲れるし、あと純粋に議長国って何処だ?


 俺は根本的にこの世界の地理が頭に入っていないんだよ。


「地図はあるか?」


 作ったのはアルブムルナだし、あっちが持ってるかもと思ったけど聞いてみる。


 すると書斎にいるNPCの内、蛇の頭を持つ女エネミーが動いた。


「こちらにございます」


 このエネミーはスネークマンという。

 和訳すれば蛇人間、そのまんまの姿のエネミーだ。

 蛇の頭に蛇の尻尾を持ち体は人間で、リザードマンによく似ている。


 遺跡系のダンジョン近くに集落をつくってるNPCでもあり、住処を襲うプレイヤーには襲いかかるエネミーだ。


(一度死亡判定つくまで襲ってくるんだよな。死んですぐ蘇生アイテム使えば問題ないけど、下手にレベル差あるとプレイヤーを殺しきれずに面倒だったな)


 強敵ではないが、エネミー化するとダンジョン近くで買い物なんかの機能が使えなくなる。

 一度プレイヤーを倒せばエネミー化は解除されるが、そのプレイヤーに逃げられるとエネミー化したままだったのだ。


 VRMMO『封印大陸』はオープンワールドで戦争という機能もあったし、拠点づくりのためにエネミーから土地を奪うというギミックもあった。

 その中でもスネークマンは住処を追われる前提のNPCでそこまで強くない。


(その上位版で襲ってくるのがヴェノスを代表するリザードマンで、そっちは日の目見ず、か)


 そして十年も続いたゲーム中では、もうスネークマンが襲われることもなくなった。

 スネークマンがエネミー化するというのも、ゲーム終了時には死に設定に等しかったんだよな。


「神よ、いかがなされましたか?」

「なんでもないぞ、スタファ。この地図は、アルブムルナが作った地図をもとに?」

「はい。その後入手した情報から、大まかな国の名称と位置も描き加えております」


 地図を広げて見れば、大地神の大陸の東に広がる王国を中心に書かれている。

 南には共和国があり、その共和国の西、猫の前足に見える半島が議長国だった。


「ふむ、議長国は北の陸地を山岳に阻まれる形のようだな。王国と交易は?」

「はい、ございません。海運に秀でた国のようで、共和国、神聖連邦と交易をおこなっております。王国には山を越えるよりも海路で西回りをして帝国から入国する経路があるそうです」

「ほう? 他の亜人たちが国を構える土地は、南の海へ通じる平地はない。だが、ライカンスロープ帝国とやらには平地があるな。もしや、そこに寄港して?」

「そのようです。議長国からすれば、神聖連邦は交易相手であると同時に、亜人との交易に関して内政干渉をしてくる不仲な隣国。それを仲介していたのが共和国以前の王国だったそうです」


 俺は素直にスタファの口から語られる情報に驚いた。


「何処からその情報を得たのだ?」

「もちろん、大神がその掌中に収めた王子と王女からにございます。情報収集がはかどらないからと、まさか国の中枢に座っていた者を連れて来るとは。私どもでは考えつかぬ神の始点」

「う、む…………役に立ったようで何よりだ」


 また過大評価か。

 けど役に立つくらい頭のいい姉弟でよかった。


 スタファも嬉しそうだし、もうこれ俺を賛美したいだけかもしれないと思っておこう。


 おや、スタファの様子が?


「何か面白い話は聞けたか?」

「ご明察」


 どうやら何かあるらしい。

 もじもじしてるのはよくあることだと思ってたが、当たって良かった。


「まことしやかに囁かれる神聖連邦の秘密諜報機関があるのだそうです。ですが共和国以前の王国にはその諜報機関は実在し所属する者が出入りしていたと王女が証言しております」

「それはまた物騒そうだ」


 つまりはスパイってこと?

 魔法のある世界でもそういう奴っているもんなんだな。


「はい、そこは抹殺機関でもあるそうでございます。かつて道を外れ神聖連邦の奉じる神を罵倒した王が始末されたとか」


 本当に物騒だった!


「七徳と呼ばれる七人の英雄級の猛者がおり、その下にそれぞれ二十一士と呼ばれる超人集団を従えていると」

「なるほど要警戒だな。英雄級か。ヴァン・クールと比べてどうだろう?」

「未だ何者であるかは。各国に散っているとも噂されており、共和国になってからか後に現れていないとも」

「つまりこの王国にも潜んでいる可能性があるのか。ふむ、いったい誰だろうな?」


 これは恐ろしい可能性だ。

 すでに準備万端で活動してる強者か。


「神よ、この世界の者のレベルであれば、我らが遅れを取ることは」

「甘いぞ、スタファ」


 俺は楽観を戒める。


「この世界は異界の悪魔と呼ばれる存在を認識している。それは高確率でプレイヤーだろう。これに異論は?」

「いくつかの伝承では怪物との形容も。ですが、確かに国を運営した狂王の話もございます。プレイヤーが数えられることに異論はございません」


 そんなのいるのか?

 けど悪魔として倒されたのか?

 だとしたら異界の悪魔自体が既存の権力者によるプロパガンダって可能性もあるのか。


 俺が知ってる態のスタファの様子をチラ見する。


(報告書の何処かに書いてあった? 後で確かめないとな)


 いや、今はそこじゃない。


「五十年前、異界の悪魔は救世教の名の下に倒されている。このことが重要だ」


 スタファは真面目な顔で頷く。


「プレイヤーを倒せる手段を保持している可能性がある。そして神聖連邦の中でも実力者がいるのならば、その手段を継承している可能性が高い」

「継承、確かにおっしゃる通りです。ダンジョンやアーティファクトもあるのですから。以前の世界には私どもに致命傷を負わせる武具もあったはず」

「そうだ、それがプレイヤーと共に伝わっている可能性が高い。レベルとジョブさえあれば特殊条件がない限り誰でも使えるのだ。そんな仕様さえも伝わっている可能性が高いのが神聖連邦ではないか?」

「なるほど、真に探るべきは我々に対抗しうる武器やアイテムの継承。プレイヤーらしき者はいないとこれまでの調査で楽観していたわたくしが浅はかでございました」


 そうなの?

 いや、待て待て。

 ちゃんと確認しよう。


「プレイヤーがいないとは確定か? それは五十年前の生き残りという意味か?」

「それもあります。現在五十年前の戦いで生き残った強者の内、存命は三人。八十から九十の老齢であるそうです」


 俺はスタファに言われてはっとする。


(そうか、プレイヤーはあくまで種族は人間。つまり老いもあれば寿命もある。ここはゲームではないんだ)


 ゲームでアバターが年を取るなんてことはない。

 けれど現実となったこの世界でなら五十年は十分な時間だ。


 もう戦う力ない。だが、それで終わらない。


「対抗する手段を、エネミーの弱点を知っているのと知らないのとでは差がある」

「はい、大神にご指摘されるまで生きる者にのみに限定していました。その知識の伝承がどのようになっているかはなんとも。自らの愚を恥じるばかりでございます」

「いや、スタファはよくやっている。もしかしたら頼りすぎたかもしれん。調査についても分散を」

「いいえ! きっと神のご期待に沿えます!」


 スタファが俺に縋る勢いで主張する。

 やる気削ぐのも駄目だろうし、ここは引き続き任せるか?


(けど、エリアボスとしてはもちろん、この城のこと、全体の報告のまとめ、ダンジョン、各国のこともってなると、オーバーワークじゃないか?)


 すぐには答えないことで、さらにスタファが俺の横に跪いて迫るように距離を詰めた。


「今お命じになろうとお考えのことがあるようでしたらどうぞ! わたくしも神のために死力を尽くす所存です。故に十全にお答えでき兼ねることは他の者の手を借りることも致します!」

「そこまで考えているのならば、いいだろう。では、この世界に生きる強者と呼ばれる者を探せ。そしてその力量のほどを確かめよ」

「手段は?」

「ま…………」


 任せると言ってはたぶん駄目だ。

 下手したらエリアボスが乗り込みかねない。


 そうでなくても条件さえ満たせばエリアボスに匹敵する力のあるエネミーもゲームにはいた。

 下手に外で死なれたら痛すぎる。


 あと普通に人間見下すNPCもいるから、人間たちに悪印象だしな。

 そうなるとこっちが討伐対象になりかねない。

 だったら見るからに敵と認識できる相手で、こっちに実害がない奴。


「…………レイス、そう、レイスを差し向けよ」

「なるほど。単なる物理攻撃は効かず、対応するならば魔法の腕、もしくは特殊な武器。レイスであれば秘蔵する上位の武器を持ち出すこともあり得ると」


 そこまで考えてないよ。

 けど確かにそれ使えるな。


 神官系ジョブでじゃないと魔法の効きも悪いし、とっさにレイスと言ったけど悪い考えじゃない。

 力押しでレイスを相手にするならレベルの下限も計れるだろう。


「神官系ジョブがいそうな神聖連邦には手控えをせよ。時期を見る」

「あそこが一番強者を隠している可能性が高いのにですか?」

「だからこそだ。他の可能性を潰してからで遅くない」

「なるほど、準備を怠らない姿勢! 私も見習わなければ」

「いや、私はお前たちを無為に損ねたくないだけだ」

「はぅん!」


 突然奇声を上げて倒れるスタファを見ると、床に横座りして豊満な胸を激しく上下させてた。


「ふ…………ふふふふふふ…………これだから神のお側近くに侍る特権を手放せないのよ…………うふふふふふふ…………!」


 うわ、触らんとこ。


 俺は息を荒くして粘着質な笑みを浮かべるスタファから、そっとない目を逸らしたのだった。


毎日更新

次回:ヴェノス・ヴィオーラス

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