84話:異世界のギフテッド
傷みは酷いが、この異世界特有のドラゴン素材をゲットすることに成功した。
選別と分配はチェルヴァ主導で行い、武器や防具としてティダとアルブムルナ、イブとヴェノスが欲しがった。
俺も欲しいところだけれど、インベントリにはもっといい道具が揃っている。
それを思い出したらあんまり惹かれなかった。
俺のせいで傷みが酷くて使える分も限られてるしな。
ということで俺は湖の城の書斎でスタファから報告を受けるという仕事に戻った。
「ギフト?」
「はい、この世界特有の異能力の類であるそうです」
スタファが報告書を出しながら聞き慣れない言葉を告げる。
報告書にはずらずらと文字が並び、こちらのやる気をゴリゴリと削って来た。
しかも文章が堅苦しい。
いや、格調高いっていうべきか?
今次帝国における皇室のうんぬんとか、一行目で折れそうだ。
(まぁ、帝国の話ってことはわかった)
俺は報告書から顔を上げてスタファに直接聞くことにする。
「帝国内に拘らなくていい。有名なギフトというものはあるのか? いや、ギフトを使って有名になった者と聞いたほうがいいか」
「生存している者であれば、議長国に決して選択を間違えないというギフトを持つ市長。今代最高峰と言われる魔法使いが無限の魔力と言われるギフトを持っているそうです」
「ほう、無限か。だが、その魔力を扱うにふさわしい魔法の技巧がなければ意味がないな」
「おっしゃるとおりでございます。その魔法使いは共和国建国の際に国を脱出し現在帝国を流浪していると噂。その中で実力を探りましたところ、魔法はLv.6までの使用を確認しております」
そうなると上位属性も扱えると思うべきだろう。
だがその程度なら問題はない。
(いや、あえて使っていない可能性もあるか?)
高位の魔法ほど範囲攻撃だったり遠距離爆撃だったりするんだ。
現実であれば俺の神魔法みたいに使いどころが難しい能力だろう。
「他にも、チャンスが目に見える商人、決して転ばない将軍、計画立ててそのとおりにすれば結果がついてくる役人など一芸に秀でる者が多い印象でございます」
「本当に一芸だな。そしてその一芸を生かせる職に就いた者が名を知られる。道理だな」
「はい、そして帝国の現皇帝は報告書にあるとおり、未確認ではありますが公然の秘密としてギフトを持っています」
そんなこと書いてあった?
俺が書類を捲ると、スタファが頬を染めて寄って来た。
「申し訳ございません。先走ってしまいました。三枚先の項目となります」
「ふふ」
「お恥ずかしい」
「いや、そうして隙を見せてくれるだけ愛らしいと思うぞ。恥じ入ることはない」
「ひゃん!」
「うん?」
スタファから奇声があがる。
見ると顔を覆ってぶるぶるしてた。
「どうした?」
「はぁ、はぁ、そ、そんな…………し、心臓に悪うございます…………」
「す、すまん?」
何故か苦しんでる。
心臓が苦しいのか?
そう言えば動悸息切れってストレス症状にあったな。
「スタファ、働きすぎじゃないか? 報告は他の者に回して休憩を」
「いいえ! あなたさまの御ために働ける! これ以上の至福がありましょうや!?」
いきなり元気に声を上げるスタファは目を見開いて全く弱々しさなどない。
うん、どうやら大丈夫そうだ。
「ならば、報告に戻ってもらっても大丈夫か?」
「はは、失礼いたしました」
なんだか嬉しそうだしいいか?
こっそりコンソールで状態異常がないかを確認してみたが、特に変化はないようだ。
「では、皇帝のギフトについて報告をしてくれ」
「承りました。…………あぁ、この神に命じられる支配感、うふ…………」
書類から項目を探す間にスタファが何か黄色い声を漏らしたような?
紙面から顔を上げて見てもびしっとした立ち姿。
いつもそれならいいんだがなぁ。
「その能力を示し名をつけるならば、支配のギフトであると言われています」
「ほう?」
いきなり物騒だな。
「どんなに激しく抵抗する支配地域でも、皇帝が赴きその姿を見せると恭順を示すのです。ここで姿を見るかどうかで影響が如実に違う人間たちが報告されています。また、皇帝周辺の異常なまでの忠誠心も有名であり、帝国宮廷に手の者を送り込むのは難しいと思われます」
その点で言えば、最初に接触したのは王国で良かったか。
けれどギフトという独自の異能力で侵略帝国を纏めているとなると、先が心配だ。
「危ういな。二代目はどうするつもりだ? まさか同じギフトを持っているなどとは言うまい?」
「はい、それもまた先の資料に。ですが御下問あらばお答えしましょう。神は我々の報告など想定問答である故に、そうして報告を見る前に御下問いただけるのでしょうし」
いや、普通にワンマン社長が一代で大きくした会社を二代目が潰すってあった話だから。
帝国は今、拡大の一途でその勢いがあるからこそ国として形を維持できているというのはさすがに俺でもわかる。
そしてお家騒動もまた俺の知る歴史ではよくあったことだ。
なら帝国でも起こっておかしくはないだろう。
「結論から申し上げますと、帝国皇太子の愛妾の一人がギフト持ちのようでございます」
「ほう、なるほど。皇太子がそれだけ己の非才を認められる度量のある者か、それともその愛妾を差し向けたのも皇帝の差配か」
「皇太子は篤実で温厚な人柄。周囲と争うことなくよく文を好むと報告されております」
文学青年風ってとこか?
それはそれでワンマン社長の二代目としてはリーダーシップが足りないって突き上げ食らいそうな予感がする。
「侵略国家の皇帝としては少々頼りないな」
「はい、おっしゃるとおりです。皇太子ではあるものの、他の太子たちの中でも大きく名が上がる功績もなければ、公の場で注目されることもなく」
つまり地味なのだ。
良く言えば堅実だが、カリスマ的な皇帝の後だとどうしても見劣りしてしまう。
侵略という暴力で従わせていた人心を掴むには、難しいと言わざるを得ない。
ライターとしてキャラ配置なんかを思えばいい。
強キャラ出して人気取りはありだけれど、それで他のキャラクターを食ってしまっては後が続かないし魅力に欠ける。
強キャラが退場した後、皇太子のような堅実なだけのキャラクターを置いてもファンの心は離れて行くだろう。
帝国は皇帝の次には方向性は別でいいけれど、見劣りしないキャラクターの皇太子を望むのではないだろうか?
「愛妾のギフトはその不足を補えるのか?」
「これも秘されて確定ではないのですが、一説では預言のギフトではないかと」
「神聖連邦にも預言者がいると聞くが。あれもつまりはギフトか?」
「それもまた公にはされておりません。ただ、預言者が現われると大々的に喧伝をし、そして神聖連邦が主導して何か大きな動きを見せるのだとか」
「ふむ、つまり預言のギフトは珍しいが歴史上何度か現れたメジャーさか」
そして今、確実に神聖連邦には預言の力を持つ何者かがいる。
恐ろしい力だ。
どんなに考えて、どんなに備えても預言として先に知られていては後手に回る。
こっちがアドヴァンテージとして抱えてる力も丸裸にされるかもしれない。
例えば転移で奇襲しても預言されていれば待ち伏せを受ける。
レベル差があっても攻撃さえ通れば殺される可能性だってある。
「可能性で構わない。ギフトについては詳しく調べろ。そしてギフト持ちがいるとなれば警戒を厳にするよう」
「はは」
俺の命令にスタファが応じる。
そして控えていた書斎の者に指示を出し始めた。
うん、できる部下がやってくれるっていいな。
このやる気を長持ちしてもらいたい。
そのために俺がやれることは…………褒賞か?
会社だと臨時ボーナスとか、金一封とかか。
けど金は下手に動かすと街の発展度が変動してしまう。
だいたい特に給料も払ってないし。
ここは試しにスタファに聞いてみよう。
「スタファよ、王であれば戦功をあげた騎士に叙勲を行い褒賞を下す。だが、司祭にはどう報いるべきだ?」
「それは…………まぁ、そのような…………」
スタファは驚いた顔をした後、頬を染めて俺の側に跪く。
見上げて来る瞳は熱を帯びて潤んでいた。
「わたくしはあなたさまにお仕えする司祭。ただ神のために奉仕する者。この地を守り治める大神がいてくださることこそが我が褒賞に他なりません」
そういうものか?
そう言えば葬式とかの支払いってはっきり値段求めないんだよな。
相場あるけど宗教者として金をもらって仕事するって形が駄目だとか。
つまり聞いた時点で間違いだったか。
聞くなら素直な年少者たちがいいだろう。
「日々神の御言葉を聞き、その行いをこの目で見られる以上の喜びがあるでしょうか」
スタファは笑みを浮かべて語り続ける。
「王国での足場固めよりも先に公国に行かれましたのも、帝国が狙う先であるからこそ。あそこを騒がせたために帝国の目は公国へ向きました。それにより王国内部での動きが容易になり、彭娘も神のお導きがなければこれほど短期間に中枢へ食い込むことは難しかったでしょう」
「う、む…………」
「王国を狙うからこそ目を逸らす効果的な一手でございます。さらには共和国にて『血塗れ団』のふりをしての騒ぎに、王女と王子の抱き込み。隠し通せることではなくとも共和国は頑なになり外へは向かいません。それは翻って隣国である神聖連邦や議長国といった距離のある国に圧をかける一手となりえる」
「そうか…………」
「最も懸念すべき神聖連邦は公国、共和国と周辺国が乱れるだけ王国から目を逸らすでしょう。あ、もしや神聖連邦をすでに狙う算段がおありですか?」
「そう、だな…………」
次々に言われて訳がわからず適当に答えてしまった。
すると書斎にいたNPCたちから感嘆の声が湧く。
困惑してスタファを見ると、そのスタファは陶然と微笑んでいた。
「やはり、神がおわす以上の褒賞などあろうはずもございません」
何故かそんな結論を口走っていたのだった。
(いや、これ…………自分でハードル上げちまったんじゃないか!?)
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