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83話:第十魔法の練習

 ゲームにあった魔法の属性は八つだ。

 火と上位魔法の光、水と上位魔法の氷、風と上位魔法の雷、地と上位魔法の闇。

 属性を司るとする神が、太陽神、海神、風神、大地神といた。


 全部Lv.10が最高で、Lv.10は相当する神の部分召喚ができる魔法だった。

 これは熟練度に関係なく、Lv.10さえ習得できれば誰でも使えた。

 俺が使ったのは闇のLv.10魔法。


 つまり大地神の部分召喚となる。


(俺自身がどうにかなる可能性もあったけど、なんともないな)


 魔法が起動するのが感覚でわかる。

 なんとなく踏ん張るような感覚があるのは魔力を放出しているってことだろうか。


 最大レベルの魔法なので、見せ技として派手なエフェクトが辺りに広がる。

 呪文の帯でできた球体の中心は、俺が杖を差し向けた正面に現れた。

 帯がほどけて巨大な魔法陣となるまでの時間は、チャージ時間というところか。

 思ったよりもゲームと同じ感覚、つまり他人ごとだ。


 解けた呪文の帯が新たな魔法陣を形作り、魔法陣からは対象上空へさらに展開していく。

 そして空から落ちる一滴の闇。

 水面に飛び込むように落ちた次の瞬間、地面から闇の手が生えた。


(ところどころに結晶体がつけられたデザインはゲームどおりか。俺の手には…………変化なし)


 そうして確認している間に、闇の手はドラゴンを引き裂く。


(うえぇ、こんな所はゲームと違…………いや、そう言えば血しぶきあがるエフェクトあったな)


 ゲームは行ってしまえばテクスチャで張られたイラストだ。

 目の前のドラゴンのように鱗を削がれて流血することなんてなかった。


 このまま引き裂かれて終わりかと思ったら、次々に現れる手がドラゴンを影の中へと引きずり込み始めた。

 これは明らかにゲームと違う。


(こんな演出ゲームではなかったぞ!? いや、これも神仕様の魔法ってことか!? この大地神がゲーム上に現れていたらこんな魔法を使って来たってことか?)


 いつのまにかドラゴンの足元は闇の沼と化し、そこから腕が幾つも現れて掴みかかる。

 爪を立て引き裂き、離すまいと引きずり込むさまは、どう見てもオーバーキル。


 ドラゴンがもがき叫んでも抜け出せることはなく、血が飛び散っても闇が揺らぐことはない。

 ほどなくドラゴンの巨体全てが闇の沼に沈んだ。


(え、あれ? これで終わり? ゲームでは死体は消えても素材残るのに、え、この魔法するとそれもなし?)


 俺が予想外の結果に慌てそうになった次の瞬間、闇の沼がはじけ飛んだ。

 派手に散る闇自体は光に消え、こちらには何の被害もない。

 けれど闇の沼になっていた地面は陥没し、その中には血塗れで横たわるドラゴンが残されたのだった。


「あぁ…………」


 俺は思わず悲しみの声を漏らす。

 それを聞いてエリアボスたちが血相を変えて集まってきた。


 そんなNPCたちの中、俺は地面に着地してチェルヴァを見た。


「すまん、錬金術の素材が駄目になってしまった。もう少し耐久力があるものと見誤ったようだ」


 普通の仕様だったとしても、オーバーキルだった気がする。

 まさか神仕様でさらに執拗な攻撃が加わるとは。


 ドラゴンは体中を引き裂かれているせいで鱗一つまともに残っていない。

 倒れる姿も動いていた時と違い厚みがおかしく、たぶん骨も大幅に折れている。

 その状態で内臓がまともに残っているとも思えないのだから、これは素材ではなくただのゴミも同然だった。


「宝珠を持っていればそれが良かったが、なさそうだしな」


 一番のレアがない。

 そしてよく見れば額の角も折れてしまっている。


(なんでLv.10撃とうと思ったんだよ、俺。素材大事だろ。ぐちゃぐちゃにしてどうすんだ。…………調子に乗りました、はい)


 俺ががっかりしていると、途端にエリアボスが慌て始めた。


「我が君に謝罪されるようなことはございません! どうかお顔をあげくださいまし!」

「そうでございます!このドラゴンとは名ばかりの弱者が悪いのです!」


 チェルヴァとスタファが声を揃えて俺に取りすがる。


「あ! ぼ、僕! 使える物探して来ます!」

「ちょっと待て! グランディオン!? お前じゃ狂化して荒らすだけだ!」

「じゃ、その前に神に献上する素材探さなきゃじゃん!?」

「あなたも適当に潰していしまうじゃない! 待ちなさい、ティダ!」


 走り出すグランディオンとティダ。

 それを止めようと追うアルブムルナとイブが離れて行く。


「神よ、よろしいでしょうか?」

「なんだ、ヴェノス?」

「神の大いなる力を前に吠えたドラゴンは、その後、抵抗はしたものの攻撃はしませんでした。あの咆哮には別の意味があったのではないかと愚考いたします」


 ヴェノスが何を言いたいのか俺にはわからないが、ネフにはどうやら思い当たることがあったようだ。


「なるほど、何処かに他の仲間がおり、それらに対して警告をしたと?」

「ほほう」


 それはそれは。


 俺はすぐにマップ化で周囲を把握する。

 すでにしていたけど高さがあってその分距離が短かったんだ。

 降りた今、もっと広範囲を調べられるので改めてマップ化のスキルを発動した。


「ドラゴンはあちらから来ましたよ」


 ネフがさらにドラゴンがいた方向を示すので、俺は従ってそちらにマップ化の力を絞った。

 すると反応ありだ。


「近づいてくる個体があるな。二回りほど小さいドラゴンだ。そしてそれがやって来る方向には、大小さまざまいるようだな…………ざっと、二十」


 どうやらドラゴンの巣があったようだ。

 これは嬉しい発見である。


 しかしその巣の中の一部が俺のマップ化の範囲外へ移動していた。


「なるほど、警告の声だったか。逃げる者があるな」

「ダークエルフ」


 チェルヴァが命じるように呼ぶと、影から現れたダークエルフがその場で大きく跳びあがる。

 木々はないが岩はあるので、見通しはあまり良くないのだ。


 軽々と十メートル以上も跳んだダークエルフは、軽やかに着地を決める。


「移動するドラゴンは見えません」

「神のお力に間違いはないはず。となると、地下ね。羽がないのは使わないから存在しないというわけ」


 スタファは土の中で暮らすドラゴンだったと推測した。


「ではすぐに確保しなければいけませんね」


 行こうとするヴェノスを俺は手を上げて止める。


「待て、ヴェノス。相手は地中だ。ならば」


 顔を向けるとチェルヴァが胸に手を当てて嫣然と微笑んだ。


「お任せを、我が君」

「ティダも地下には慣れているだろう、連れて行くといい」

「暗がりでの活動でしたら某とイブも適任ですが」


 そう言えばこのネフが縄張りにしてる教会の中って真っ暗な設定だったな。

 それでこの真っ黒なこいつがぬっと出て来るという演出だった。


(イブはアンデットブラフで夜のエリア設定だったな)


 思い出しながら、俺は許可を出す。

 ぐちゃぐちゃのドラゴンの死体からティダとイブが勇んで新たな獲物を狩りに走った。


 その間にグランディオンを引き摺ってアルブムルナが戻る。


「綺麗な鱗一つありました!」


 グランディオンが花のような笑顔を浮かべ、勇んで両手で大きな鱗を掲げる。

 けれど血塗れのグランディオンを引きずるアルブムルナは溜め息を吐いて諌めた。


「それも傷だらけだから装備に使うには質が悪いだろ。薬、くらいにはなるかな?」

「あぁ、まず使えるかどうかを検分させてからチェルヴァを行かせるべきだったか」


 俺の後悔にスタファが笑みで応じる。


「同じような物でしょうから、その必要はないかと。小神たりとも賢者を名乗るのですから、少々の質が悪くとも大神の御要望にお応えすることでしょう。しなかったのなら廃せばよいのです。あのような小神、廃してしまいましょう、えぇ、そうしましょう」

「待て待て、私情が入りすぎだ。これは前の世界にはいなかった種だろう? 今までの常識が通じない。または、全く別の活用法があるかもしれん」

「なるほど、今以上を目指して。さすがは大神であらせられます!」


 スタファが頬を染めて熱い息を吐く。


「う、うむ。できれば先に来ているだろう他の者に聞ければ楽だろう。だが、後塵を拝すだけというのも面白みに欠ける」


 何より、プレイヤーだと初見で敵対する可能性のほうが高いし、危険だ。

 情報だけうまくとるにしても相手の目星もないし。


「ドラゴンの発言から奴が見たことのある治外の者とやらはスネークマンだろう。そうじゃなくてもドワーフやエルフという前の世界にもいた種族と名は同じだが、本当に同じかもまだ未確定だ」

「違うのいるんですか? だとしたら何が違うんでしょう」


 アルブムルナの問いに、俺はグランディオンを指す。


「さてな。少なくともライカンスロープという似て非なる者はいる」


 グランディオンと似てるらしいが、王国で調べた限り完全に獣人だった。

 グランディオンのような獣耳ではない。

 だが、それで言えば狼男の本性はライカンスロープと変わらないということになるが、人間になると言う話もないらしい。


「大神はこの世界にいるエネミーにご興味がおありでしょうか?」


 ヴェノスが普段と変わらない様子で聞いてくる。

 攻撃が異様に当たらないさまを見ていなければ、寒さでステータスダウンをしているとは思えない余裕ぶりだ。


「興味か…………ふむ、ないとは言わないな」


 純粋な好奇心として、どうなってるかは気になる。


 大地神の大陸のNPCは自我を得ているし、ただのエネミーのはずの者たちにも独自の意識があるのだ。

 そうなると俺とは別に来たエネミーたちもそうである可能性が高い。


「なるほど、了解いたしました」

「うん?」


 ヴェノスの返事に違和感を覚えるが、どう返すのが正解だ?


 聞けずにいる間に、戻ったティダたちがドラゴンの巣の殲滅を終えたと報告した。


隔日更新

次回:異世界のギフテッド

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