79話:根を張るNPC
俺は時間稼ぎにレジスタンスの動きについて報告を受けることになった。
どうやら一緒にいた紫色のアラクネが拠点地候補地の見定めや、人員の選定などを任されているそうだ。
第一レジスタンスのファナは、使われる側だったので発言するよりも頷くばかり。
そこで発言が目立ったのは使う側だった王女と王子だ。
しかも金を握らせる相手の選別方法など子供らしからぬ意見まで上げ始める。
(あっちはやる気ある奴らに任せておこう。なんか俺の知らない世界すぎる)
ほどほどに時間を潰した俺は今、黒い空飛ぶガレー船で湖の城へ向かっていた。
イテルを先にいかせて説明を丸投げにしたため、悪いようには言わないと思うが少々心配だ。
どうなっているかわからない不安を抱えつつ、ガレー船が着水するのを待って降りる。
すると城へと続く桟橋にはスタファたちが整列して出迎えた。
「お帰りなさいませ、我らが神よ。八面六臂の活躍であったと報告を受けてございます。お近くでその雄姿と智謀を拝見させていただきたかったですわ」
スタファが白い頬を染めて溜め息を吐いた。
(何を報告したんだ、イテル!?)
そのイテルは、エリアボスたちの後ろに並んでやり切ったと言わんばかりの満足顔。
「共和国の喉元に突きつけられたナイフとも言える王子と王女を確保のみならず、レジスタンスとは…………。本当に何処までも人間を躍らせる手管に長けていらっしゃる」
ネフが笑って褒めてるようだが、お前まで乗り気だと不穏すぎるんだ。
(そしてさすがに慣れてわかってる。この後、ヴェノスもチェルヴァも無茶ぶりか何かくるんだろ)
たとえ褒め言葉でも実態が伴わないとただの圧でしかない。
これ以上の追撃は阻止せねば。
「おおげさな世辞はいらない。これからだ。わかっていよう?」
俺が何もわかってないけど、それでも全て俺の掌の上と言わんばかりに話を打ち切った。
出迎えてくれたところ悪いけど素っ気なく中へ逃げる。
「わかり切ったことしつこく言うからだよ」
「アルブムルナのいうとおり、逆に失礼だったようだ。讃える言葉はいくらあっても足りないせいでついね」
俺と一緒にガレー船を降りたアルブムルナに、ヴェノスが反省の弁を述べる。
違うけどその思い違いのまま、俺を無闇に持ち上げないでいてくれ。
完全無欠の神じゃないってばれた時のダメージが今、累積ですでにこの城よりも高い位置にありそうだから。
「伴の魔女、我が君をうるさく褒めたたえる者でもいたのかしら?」
「は、女神さまそのような。あ、いえ。そう言われれば、王女がことあるごとに立てていました。大神は素っ気なくいなしておりましたが」
背後でそれだという雰囲気が広がった。
(俺は何も気づいてない、聞いてない。けどな、イテル。ことあるごとに大袈裟に褒めたり誇大に俺の力喧伝してたの、お、ま、え、だ!)
あぁ、連れて行かなければ良かったのか?
けど自己防衛もできて不便なこの世界の生活を身をもって知ってるなら、今後イテルにはこの経験を生かしてほしいんだけど。
そんなこと考えてたせいでスライムハウンドに案内されるままに広間へ来てしまった。
執務室いけばメモ取れたのにな。
「…………共和国でのことはイテルに聞いているだろう。ならば次は私に聞かせよ」
ちょっといない間に見上げるような立派な玉座と玉座を飾る重そうなカーテンがついてる。
この城、玉座なかったはずなんだけどな。
俺はそれに気づかないふりで報告を促した。
何度か戻ってた間に大きな動きはなしと報告は受けてる。
というか、報告よりも俺が戻って来たってだけで次々に話しに来てたんだよな。
(嫌われてないのはいいんだけど、一気に詰め込まれると覚えられないんだって)
それでもやることやったら半日で戻り、王女を拾ってからは戻れず、しかも共和国でだいぶやらかした。
(絶対俺の余計な行動でみんな計画ずれたよな。けど俺は正直、どうすればいいかわからないんだよ)
だから話を聞く側に回る。
「それではまず彭娘についてご報告いたします」
スタファがすぐに俺の前に出てそう言った。
さすがにここのところ何度も聞いた名前であり、あの王国に入り込んだチャイナだとわかる。
「王妃に取り入ることに成功し、確実に与党を増やしているとの報告が。また宝石は」
「それは、わたくしが報告すべきことでしてよ。出しゃばりは殿方に嫌われると覚えておきなさい?」
スタファを遮って、チェルヴァが前に出ると途端に喧嘩の気配だ。
俺は二人が何を言う前に先を促す。
「チェルヴァが作った宝石はどうなった?」
「はぁい、我が君」
チェルヴァが声を弾ませて喧嘩よりも俺への報告を優先してくれた。
「王妃と言えど審美眼なく、大きいだけの宝石をありがたがっております。彭娘が家宝、秘宝と渋りに渋り、焦らしに焦らした上で献上したところ大層気に入り彭娘を特別愛顧して城に一室を与えたとか」
城に部屋?
わざわざ言うなら相当のことか?
ここでは余ってるからなぁ。
(あ、そうか! 執務室以外にも仕事で集まる場所、会議室作ればいいんだ!)
広間でこんな大袈裟なことせずとも、もっとフランクに集まれる場所を用意して使うよう言えばいい。
そうすれば会議資料として記録を残せるし、後から見直せる。
今は報告中だから後でここのエリアボスであるスタファに話してみよう。
「うむ、良い報せだ。私の共和国での動きを伝え、変更したいことがあれば言うように」
「かしこまりました。彭娘も神にご満足いただけたならば一層励むことでしょう」
どう見分けてるのか俺の上機嫌がわかったらしいチェルヴァが頷く。
そんなチェルヴァを横目に見るスタファが悔しそうに睨んでいたのは見なかったことにしよう。
「神よ、彭娘の件と帝国での暗躍を合わせまして、それぞれの部下を各国に送り込み動いておりますことをご報告させていただきます」
スタファが別の報告をねじ込んで来たが、それは前に戻った時に許可を求められた事項。
レジスタンスのほうでは部下を上手く使えと言ってあったので、こっちにもエリアボスの部下なら出ていいと許可を出したのだ。
どうやらすでに派遣しており、一定の情報を得たらしい。
「さすがスタファ。手際がいいな」
「はぃぃい!」
褒めただけでスタファが声を高くすると、今度はチェルヴァが睨んでた。
お互いにメンチ切るのやめなさい。
「…………ヴェノス」
「はい、神を前に同僚が申し訳ない。二人は放っておいて、私からご報告をよろしいですか」
どうやらここは触らないのが正しい対処らしいので、俺は頷きを返す。
するとヴェノスがアルブムルナに振った。
「帝国にはアルブムルナたちが一人ずつ配下を派遣しました」
「はい、俺の下の斥候できる羊獣人を五人一組で。ただ人間には見られないように帝国西へ。ティダの配下には色白でドワーフに見える奴がいたんでそいつを帝都に行かせてます」
「ほう、人間の中へ? つまり最初からエネミーであることを隠さないのだな?」
「はい、調べたところ陸路と海路で帝国西は亜人の国とやり取りがあり、帝都に定住するドワーフの前例があることもわかってます」
だから思い切っていかせたそうだ。
グランディオンの配下からはアラクネが下半身を見られない位置取りを気をつけつつ人間と対話することで諜報や勧誘を担うのだとか。
イブの配下は悪魔やグールなので、帝国内の墓場にグールを放り込んで帝国の対応を見るらしい。
(グール程度なら大した問題でもないし、意外と穏便な方法を選んでるな。ティダもちゃんと考えて部下を選んだのか)
俺が頷くとヴェノスがさらに続けた。
「帝国に送った者からの情報により、帝国に入った亜人の一部は王国にも出入りする者があるそうです。その中にはドラゴニュートなる種も。なので王国の都に私も部下を送りました」
「あそこは彭娘に任せたはずだが?」
「その彭娘が城で手一杯とのことでしたので。あくまでリザードマンは市井での活動に専念する所存です」
市井か。
確かに東京に国会あるけれど、そこにいる人間が東京都のことを掌握してるわけじゃない。
「公国は山林が多いとのことでしたので、潜むことのできるエルフを。小王国との国境を中心に。そして公国と小王国には魔女を街中に入れることとなりました」
「確かに同じ国とは言え、場所によって得られる情報は変わるだろう」
「はい、そしてどうもここより北の山が低くなっている場所に、西の亜人が越えてくる峠があるとの噂があるのです」
ヴェノスが言うにはすぐさまここを見つけられはしないそうだ。
「ですが把握のためにリッチを五人一組で山越えルート探索に派遣いたしました」
アンデットなら死亡の可能性低いし食糧もいらないだろう。
「まさに適材適所。素晴らしい采配だ、ヴェノス」
「いえ、皆の協力あってこそのことです」
俺がヴェノスを褒めると、スタファとチェルヴァが報告の機会を逸したことに気づいてようやく喧嘩をやめた。
そこにネフが一歩前に出て来る。
静かだったの気になってたけど、何か言われるとなると身構えてしまうな。
「大神を楽しませる情報としては、どうやらこの世界にもダンジョンがあるそうです。王国にあるのは地魔法を使うゴーレムの巣窟、ノーライフファクトリーと呼ばれるダンジョンだとか」
俺は予想外の報告に絶句する。
NPCはわかってない顔だが、プレイヤーの俺ならわかる。
それはゲームにもあったダンジョンだ。
そしてそれは、ここに俺たち以外の転移例が確定したのと同義だった。
隔日更新
次回:七徳の純潔




