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7話:大地神の姿

「はぁぁああ。疲れた」


 俺は一人無駄に広い部屋の中で息を吐き出した。

 いや、呼吸してないけど。


 ここは高原を東に下った場所にある湖の上の城。

 スタファの持ち場で出入りの容易さからここを集合場所としてエリアボスを大地神の大陸に散らした。


(ようやく一人になれたけど、気を抜いてられないな。思い出せる設定を思い出しておかないと)


 スタファは設定上、北の山脈に住む巨人だ。

 同時に知的生命として設定されたドラゴン系とスライム系のエネミーを従えている。


 三段変形の今の姿の美しさに執着しており、本性の巨人の姿をさらすとゴリゴリの物理で目撃者を殺しにかかるという設定だったはず。


「肉体的には幽霊だからか疲れないけど、なんか、心が疲れた。いや、頭か?」


 思い出せる設定を思い出してみても、会話したスタファとは何かが微妙に違う。

 そこは作ったのが俺だけではないせいか。


「だいたいどこら辺までがゲームなんだ、これ? この大陸の外周には区切りがあった。地形がずれてるっていうか」


 ゲームの世界ではないし、仮想現実でもないと思う。

 ここが未だにVRMMOだったとしても、バグであり、まともな世界じゃないから『封印大陸』の理屈は通じないだろう。


(俺が大地神の時点で違うしな)


 というか生贄にされたプレイヤーだとばれたら、イブの様子から殺されかねない。

 神を偽るにしてもあいつらにとっての大神とはどんな存在だったか思い出さないと。


 頭使いすぎても辛いから、もうこのなんか人型宇宙みたいなグランドレイスの姿は突っ込まないにして。


「プレイヤーだったらステータス見れるから現状把握に役立つんだ…………が!?」


 言ったらまた頭の中でスイッチを押す感覚が起こり、目の前にはコンソールが開いた。


「見たことのない形だ。プレイヤーのコンソールとは違う。…………が、同じ部分もあるな。…………よし、大地神のステータスだ!」


 俺は宇宙のような指を使って目的の項目を探り当てた。


 半透明のグラフィックに光る文字が並ぶ。

 プレイヤーと同じように今の俺の姿がステータスと並んで自動回転していた。


「うっわ…………基本的な能力値がレベルマプレイヤーの倍以上って。一番低いのが防御だけど、グランドレイスの種族特性で一定以下の攻撃は無効ってのがさすが神だな」


 そして一番高いのが予想どおり魔法攻撃力。

 神独自の魔法は範囲殲滅や迎撃と思しき名称が並んでいる。

 それ以外の魔法はLv.10までを完璧に習得していた。


 本来魔法はレベルに応じて必要なアイテムで覚える。

 そして覚えた後は熟練度とも言えるランクを上げなければいけない。

 ランクは1~10で、Lv.10の魔法もランク1ならLv.5のランク10程度だと言われている。


「ランクもマックスか。相性悪いと思ってた光の魔法も使えるな。…………いくつかプレイヤー育てたけど全属性マックスなんてやってないし、これ完全にこの大地神の設定だな」


 そうして見てわかったのは神という設定だけあってチート能力なことだった。


 物理も魔法も一定以上のダメージがないと無効化。

 レイスだから地形関係のペナルティも無効、肉体に害を及ぼす状態異常も無効、呪いとかかけたら倍にして返す仕様。

 さらに神だからアンデット系が苦手とする光属性にもクリティカルは出ない。

 体力や魔力を奪うアブソーブ系の種族特性も持ってるとくる。


「とは言え、これで最強とか思い上がるのはなしだ。なんせ、元がゲームなんだからな」


 攻略方法はあるし、実際同格扱いの海神はプレイヤーたちによって倒されてる。

 やりようがあるなら慢心は禁物だ。


(弱点がなくても、レベルマプレイヤー集団に蛸殴りにされたらそりゃ死ぬわ)


 何より俺が覚えている限り、エリアボスは強い。

 弱点もあるがそれを補う尖った特性もある。

 それが七体も集まれば神にだって対抗できるはずだ。


(今は俺を神として崇めているから従順だが、正体がばれた時には敵に回る可能性が捨てきれない)


 対抗策を考えないと逃げることもできないかもしれない。

 ただ俺が関わってないゲーム上の性能はどうなってるか思い出せもしないし。


「…………あ、配下のステータスも参照できる! これ、制作側の使ってたコンソールってことか?」


 項目の中には環境設定なんかもあって、フィールドの季節や天候を変えられた。

 現在の大地神の大陸における状態を表す表示もあり、今の天候は濃霧となってる。


 ただ環境情報の中には『海』という箇所があり、全体的に暗くなっていて選択できない状態になっていた。


「風向きがあるから、もしかしたら霧を晴らすこともできるのか。それに、エネミー配置もこれで可能。都市なんかの発展度も見られる」


 プレイヤーはエネミーを退治することで拠点として都市を得ることができる。

 オープンワールドなので新たに都市を作ることもでき、それには運営への申請が必要だった。


 発展させることでプレイヤーに恩恵もあれば、ジョブで商人もあるので金稼ぎや街づくりがしたいプレイヤーはやってた遊び方だ。


「で、その申請の許諾もこのコンソールでできると。…………それぞれのエリアに資産がそれなりにあるのはなんでだ? プレイヤーの出入りがなかった場所なのに」


 初期設定で資産があるのか?

 プレイヤーとして都市発展にはかかわらなかったから知らないんだよな。

 ただ色々面倒な条件を揃えていかないといけないというのは聞いたことがあるので、やり込み要素として楽しんでいたプレイヤーの話は聞いた。


「人間を下に見る種族ばかりのここだと余計厳しそうだが…………結局それを知ることができる奴は、もう誰もいないんだな」


 ゲームは終わった。

 ここは違う世界だ。

 ただ夢か現実かはわからない。


(そこを見極めないと…………ないと…………ないとどうなる?)


 問題あるのだろうか?


「…………どっちでもいいんじゃないか?」


 俺はもう仕事がなかった。

 家族や友人とも疎遠になっていて、せっかく作った『封印大陸』も幕引きを公式の発表で知ったくらいだ。


「世界の終わりに日の目を見せようと思ったけど、それも失敗だった…………」


 ここが何処にせよ、ゲームでないならこの封印された大陸は解放されなかったという結果は変わらない。

 大地神の大陸は、世界から取り残されたままだ。


「けど、NPCは待ってたんだよな」


 生贄というプレイヤーが来るのを。

 そして大地神を復活させるという、俺が最初に設定した役割をこなそうと頑張っていた。


 なのにゲームの舞台にも出られず、気づけば知らない場所だ。

 もしかしたら命の危険があるかもしれない。


「命…………? プレイヤーのいないキャラだからって、生きてないなんて、言えないよな?」


 NPCは喜んだ、畏れた、驚いた、喋ってた。


 あれがプログラムだとは思えない。

 ほぼスルーだったけど、ゲーム内で会話した数少ないイブとネフは違いが顕著だった。


「もっと、遊べば良かったな」


 口では反抗しつつも喜びを押さえられなかったイブを思い出す。

 相手にされなかった、無視されたと嘆いたティダやアルブムルナ、グランディオンの素直な感情に嘘はなかった。


(俺は、楽しむために作ったんだよ)


 なのにタイムトライアルのようなことをして、よく見る余裕なんてなかった。

 終わりを前にしてようやく踏み込んで、楽しみもせずに走り抜けただけだ。


「俺は設定を作った親みたいなもので、あいつらがやってたことって、俺がそう設定したからだし…………なんか、申し訳ない」


 もし今のように自由があったら、NPCはどうしていただろう?

 チャンスも与えられず終わってしまったけれど…………。


「いや、これがチャンスだとしたら?」


 夢かもしれないけど、今は俺の意思を離れてNPCたちが動いてる。


 だったらこれは解放という目的の一つの結果ではないか?

 囚われながら従っていたNPCたちに、今度こそ日の目をみるチャンスを与えられるんじゃないか?

 こんなゲームでもない世界で、封印されてるわけでもないのに閉じこもってるだけなんて可哀想だ。


「そのために俺ができることは…………あるな」


 悪くない。

 神ではないけれど確かに俺が生み出した者たちだ。

 だったら面倒を見て支えるのも俺の役目なんじゃないか?


「まず何をする? ここが何処でどういう場所かもわからない。となれば元の大陸の維持か。東から南は山だったが、西はどうだ? 断崖で防げるか? 東はアルブムルナの船団が守っていたが、北の山の向こうは…………」


 アルブムルナは海賊で船団を持つ。

 黒いガレー船で空を飛べるが、山に対応できるかどうか。


「本人も座礁を警戒してたな。壊れても直せるといいんだが」


 拠点の維持の次は何をする?

 戦力の確認、備蓄の確認、何処までゲーム機能が生きているかも確認しなければ。


「確認ばかりで内に籠っていても改善しない。日の目を見ることもないままは駄目だ」


 となれば目指すは外の世界。

 威力偵察くらいはすべきだろう。


 ふと自分のステータスに視線を落とした。

 そして改めてこの姿を客観視する。


「…………もし外にいるのが人間だとしたら、俺の姿見た途端エネミー認定だな」


 騙しが基本だからエリアボスは人間風に設定してある。

 異形で強敵感を出すためのエネミーもいるものの、この大地神の土地に住む人間は一種類だけだ。


「魔女は、ガチで人間生贄にする系の設定にしたし。人間以外の奴らが住んでる土地だったら、俺もどうしていいか。ともかく敵対は駄目だな。数でやられるだけだ。だったら目指すはヒーロー。いいことすれば少しの見た目の特殊さも評価が覆い隠してくれる、かもしれない」


 俺はゲームの終わりまで埋もれて終わったNPCを、世間に知らしめ受け入れさせることを目標に据えたのだった。


一日二回更新

次回:ネフ

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