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62話:旨味のない話

 成り行きで共和国以前の王国の姫を助けた。

 その上この王女が弟を助けたいと言い出している。


 これ、見捨てるってありかな?


「わたくしは三年前に城から幽閉塔へと家族で移送されました。王都を離れようとしたというだけでなんの罪になるというのでしょう。陛下はわたくしたち子女をより安全な場所へと考えただけだというのに。この王都の治安を乱す議会が、いったい、何を恥知らずに…………!」


 勝手に話し出さないでほしいし、自分で言って自分で興奮しないでほしい。

 正直、面倒な予感しかしないから聞く気ないし。


 イテルが自主的に助けたと思ったけど違ったしな。

 妙な勘違いで俺が何か考えがあると思われてるけどそんなものはない。

 俺だってイテルの考えに頼る気だったのだから、亡国の王女なんて手に余る。


(情報と言っても幽閉されてたなら大したこと知らないだろ。だいたいお姫さまなんだから政治とか関係してないはずだ。知ってても過去の国のこと。すでに革命は終わってるなら今から何しても混乱の元だ)


 国を乱したって悪評にしかならない。

 そんなのNPCたちの印象を悪くするだけだ。


 何より得るものがない。

 この王女を助けて、弟を助けてどうする?

 王子を国王に戻してもこの国は財政難だったんだ。

 破綻は目に見えてる。


 滅ぶしかないのに手を貸すだけ外れだ。

 しかも手を貸したらその後も面倒を見ろと言われそうなくらいにこの王女には何もないことが厄介でしかない。

 そこに俺たちにとっての旨味があればまだ話は別だろうが、俺に国盗りをするつもりなんてなかった。


「父とはそれ以来会うことなく。王室の女性は全て同じ場所に詰め込まれたので母とは一緒におりました。けれど二年前、私以外は連れ出され戻ることなく…………」

「連れ出され? それはつまり、処刑を知らされないままだったということ?」


 思うところは色々あるんだが、イテルが聞きの姿勢なので止めるに止められない。

 これは自主性か?

 それともさっきみたいな勢いだけ?

 しかもそれが神をしてなんでも知ってるとかそんな前提だから怖い。

 けどこういうやる気を見せて進めてくれるってありがたいし、ここで下手に止めて今後に響くのも困る。


 うぅ、俺は他人を使うような仕事してなかったんだよ。

 神って名目だけでカリスマ性がつかないのが困る。


「突然引き離された時さえ知りませんでした。知ったのも一年前、側つきの夫人が漏らして、あの、裏切り者が…………。城からさっさと逃げたと思ったら議会のブルジョワと再婚して、厚顔にもわたくしの前に…………!」


 そして漏れ出る黒い感情。

 これも王女に肩入れしたくないと思う一因だ。


(同じ人間だったはずなのに、同じ人間とは思えない狂気を感じる)


 ただでさえちょっとアイデンティティ揺らいでるのに、人間に疑いを持たせないでほしい。

 いや、それ言うとイテルもなんでこんなに察しが悪いのか。

 人間同士ってもうちょっと通じるもんあってもいいと思うんだけど。


「ふふ、逃げる時にあの夫人の背中を蹴りつけてやりましたの。階段の上から蹴落として」

「やるじゃない」

「えぇ、それは醜い悲鳴を上げながら顔から下に落ちて行って、うふふ。質の悪い敷物でしたわ。背中を踏んでヒールを食い込ませても歩き心地の悪いこと」

「なるほど、気概やよし。…………どうでしょう?」


 なんでか俺を見るイテル。


「どうでしょうも何も…………こほん、逃げて追われて怨みある相手一人を痛めつけてそれだけなのかね?」


 俺の言葉に王女は目を瞠って自分の胸を掴む。


「ほんとうに、なんでもお見通しなのですね、賢者さま。えぇ、自らの過誤を申しましょう。…………わたくしは、弟の救出に失敗いたしました」


 呆れて言っただけなのに、王女はさっきまでの居丈高さが鳴りを潜めて悄然としてしまう。


 助けてと言っていた相手であり、弟であり、国の正当な跡継ぎ。

 とは言えその国がすでに傾いてるし、こんな傷んだ状態で取り戻しても結局金がないのでは立て直しなど無理だろう。


「幽閉塔の下にいたのです。母を苦しめるためだけに、下の部屋で弟は酷い扱いを受け、助けを求めて泣き叫ぶのです」


 震える声で語る王女はどうやら涙を流しているらしく顔を覆う。


「何もできず、声をかければこちらが打たれ、声が弱っているから医者に診せてほしいと言っても取り合ってもらえず」

「妙な話ね。国王を殺しておいてその後継者を生かした理由は何かしら?」


 イテルが全く同情も憐憫もなく呟く。

 ただ俺も他人ごとなので内心では頷いていた。


「わたくしと同じく父母の罪を捏造するための被害者として弟は使われました。二年前から泣き声は聞こえていませんでした。怒鳴る声も殴りつける音も。なのでわたくしは母たちと一緒に別に移されたのだとばかり…………。けれど、父母は処刑されたと一年前に聞き、あの夫人からなんとか弟が今も下にいると聞いて、助けに向かったのですが」

「失敗の要因は?」


 イテルが端的に答えを求めた。

 こういう時は使えると思うのに、本当になんで王女を助けるのが俺の考えだなんて思い違ったんだ?


「部屋が幾つもあって、呼びかけたけれど返事がなく特定できなかったのです。時間をかけている内に逃げたことがばれて追っ手をかけられ、そのまま…………」


 イテルは急かしたわりに王女の話を真面目に聞いてる。

 やっぱり乗り気なんだろう。


(けどファナみたいに使うって言っても、レジスタンスも俺よくわかってない。それにこの王女は帝国に関係ないし)


 ついでに言うと大地神の大陸に寄与するとも思えない。

 共和国はここまで来てよくわかったが不安定だ。

 だからって国境の山脈深くに分け入ることはないので、すぐさま対処しなければならない危険性もない。


 逆に共和国という不確定要素があるから、南の国境を触らずにいる王国の現状がある。

 となれば大地神の大陸の安全のためには共和国はそのままでいてほしい。

 時間をかけて今いる政府に統治と復興を進めてもらいたい。

 そうして国内に手を焼いている内は王国にも手は出さないだろう。


(やっぱりこの王女とかその弟とかどうでもいいな)


 となると考えるのは口封じだ。

 転移を見られてる。

 生命線とも言えるアドヴァンテージなのだから、知る者は少ないほうがいい。


 プレイヤーが他にいても転移は知らないだろう。

 知っているとすればそれはゲーム制作側の人間。

 つまりほとんどのプレイヤーも知らない能力だ。

 そんな優位ををこんな馬鹿げた理由でふいにするつもりはない。


(我ながら酷いこと考えてる…………はずなのに、全く感情が動かないな)


 ちょっと自分にびっくりした。

 殺人願望なんてなかったし、殺人鬼とかの犯罪者という言葉には抵抗がある。


 できればこちらが汚名を被らない形で王女を切り捨てたい。

 余計なことを言わないように…………って、この考えがもう俺の考える常識から外れてる。


「全ては神に任せればいいの」

「神…………?」


 なんてちょっとナイーヴになってる間にイテルが!


 王女は突然の言葉に驚くけれど、すぐにまた黒い表情が顔に浮かんだ。


「神が何をしてくれると? 神聖連邦はすでに我が国を見捨てています。国内の宗教施設が潰されるというのになんの動きもございません。裏に武力を抱えていると言われていましたけれど、所詮は噂。信徒の守り手などとおこがましい!」


 武力? ただの宗教国家じゃないのか?

 いや、噂というし王女の思い込みの可能性もある。


「ふぅ、あなたは本物の神を知らない憐れな人間ね」

「こら、イテル」


 さすがに怒るとイテルは散々神と呼ぶことを禁じていたこと思い出したのか、目を彷徨わせた。


「か、神の如き智謀の主に任せればという意味です!」


 何も良くなってない!

 結局俺に丸投げじゃねぇか!


 けど王女は気づいた様子で俺を見た。

 イテルも俺が大地神と疑ってないからこその信頼の目で微笑みかけて来る。


(神じゃないなんてばれたほうが俺の身の危険に繋がる。かといってこの王女どうするつもりもない。この場を切り抜けるには…………)


 いっそファナに投げてみるか?

 歳の頃は近いし同性だし。


(いやいや、それでファナのほうはレジスタンスとかよくわからないことになってるんだ。さらに俺の手に負えない状況になるだけだろ)


 共和国の情報は集めたからもう戻っても問題はない。

 けどまたレジスタンスとか王国とかわからない話でぼろ出すのも怖い。


 そう考えるとここは目の前の二人だけを相手にしたほうが気は楽なのかもしれなかった。


 王女さえ始末できればイテルは丸め込めそうだ。

 となると、この王女が消えて捜そうとする者の有無を確かめないとな。


(まずは共和国政府だが、こっちは問題ない。殺しても怒らないだろう。じゃあ、問題があるのは…………)


 国王が死んだのにまだ王家を奉る者いるのか?

 …………いる、かもしれないな。


「そもそも君は弟を助け出したとして何処へ向かうつもりだった?」

「やはり、わたくしに手を貸す者がいることはご存じでしたか」


 当たりだ。

 王女は頭が悪い様子はない。

 だったら無謀をするとも思えないし、弟を助けようとしたならその後の生存込みでの逃走が必要となる。


「この国にまだ?」

「います。王家の恩顧に報いようという貴族はわずかながらまだ国内に留まっております」


 わずかか。

 けれどいるのが問題だ。

 それが面倒の種になるかもしれない。


 どう聞きだして始末しようか。

 そう考えていた俺の感覚に引っかかるものがあった。


(最近常にマップ化をするようにしてたのが幸いしたな。知らない土地でも方向見失わないし本当に便利だ。今も、これのお蔭で接近する何者かに気づけた)


 俺の感覚には、こちらに向かって大急ぎで武器を抜いたまま来る者たちがいるのがわかった。


毎日更新

次回:よく怒る

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